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目の錯覚、誰がどうやって見つける? 偶然発見される錯視、理論的に作られる錯視コンピュータで“錯視”の謎に迫る(2/2 ページ)

» 2019年05月02日 07時00分 公開
[新井仁之ITmedia]
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 「(コーヒーマシンの抽出口を)上から見ながらカップに注いでいると、ちょうど良い量だと思っていても、実際には少なめになっている。少し多めに注いでおいた方がいいよ」

 この話からすると、コーヒーチェーン店で店員さんにも同じ目の錯覚が起こり、さらにそれを回避する術も経験的に分かっていて他のスタッフに伝承されているようです。

 そこで、コーヒーカップでこのタイプの錯覚が起こることを実際に試してみましょう。まずは、カップの上からコーヒーをちょうど良いと思われるところまで注いでみます。

photo 図7 上から注いだコーヒー(筆者撮影)

 しかし、横から見ると、コーヒーの量はかなり少なめです。これでは客から「少なすぎる」とクレームがあるかもしれません。

photo 図8 横から見たコーヒーカップ(これは錯視ではありません)

 厳密には、このコーヒーカップの錯視はこれまでに紹介した錯視とは違うものとも言えますが、それはともかく、本の挿絵、建物、店の中など、さまざまなところにいろいろな錯視が潜んでいることがあります。

 「自分の周囲に何か錯視はないか」──そんな目で周辺の風景を見直すのも、また面白いかもしれません。一昔前は錯視を発見しても、発表の機会を持てる人は限られていました。しかし、今は昔と違ってインターネットがあるので、誰でも見つけた錯視を広く発信することができます。もしかすると、新しいタイプの錯視が見つかるかもしれません。

 次回は偶然ではなく、理論的に導き出された錯視をご覧いただき、その錯視の謎にコンピュータと数学を使って迫ります。

 【注1】いくつか錯視を紹介しますが、錯視の見え方には個人差があり、人によっては特定の錯視が見えないということもあります。

引用・参考文献

[A] H. Arai, A nonlinear model of visual information processing based on discrete maximal overlap wavelets,

Interdisciplinary Information Sciences, 11 (2005), 177-190.

[F] ジョン・P・フリスビー(村山久美子訳)、シーイング、錯視 – 脳と心のメカニズム、誠信書房、1982.第2版:J.P.Frisby and J.V.Stone, Seeing. The computational Approach to Biological Vision, 2nd ed., The MIT Press, 2010.

[H] L.Hermann, Eine Erscheinung simultanen Contrastes, Archiv für die gesamte Physiologie des Menschen und der Tiere, 3 (1870),13-15.

[K] 北岡明佳、錯視入門、朝倉書店、2010.

[Z] F. Zöllner, Ueber eine neue Art von Pseudoskopie und ihre Beziehungen zu den von Plateau und Oppel beschriebenen Bewegungsphänomenen, Ann. Phys. Chem. 186(1860), 500-523.

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著者:新井仁之(あらい ひとし)

早稲田大学 教育・総合科学学術院・教授、理学博士。

横浜市生まれ。早稲田大学、東北大学、東京大学を経て現職。

視覚と錯視の数学的新理論の研究により、平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞、1997年には複素解析と調和解析の研究で日本数学会賞春季賞を受賞。


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