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ノートルダム大聖堂火災と9.11と陰謀論動画の世紀(3/3 ページ)

» 2019年05月07日 15時02分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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YouTubeのレコメンデーションアルゴリズムは陰謀論と親和性が高い?

 しかし、さらに一歩踏み込んでみましょう。なぜYouTubeはアルゴリズムによる対策を余儀なくされるほど、陰謀論に関して批判を浴びているのでしょうか。

 例えば著作家のゼイナップ・トゥフェックチーさんは、New York Times紙への寄稿記事の中で、YouTubeを「人々を過激主義に走らせる21世紀最強のツール」と呼んで批判しています。またBuzzFeedの記者たちも、YouTubeを「人々の敵対を招き、陰謀論を蔓延させ、時には害を及ぼすコンテンツを培養するシャーレ」になると表現しています

 なぜそう言えるのか。彼らの批判の根拠となっているのが、YouTubeのレコメンデーション機能です。YouTubeはサイトの滞在時間を長くするため、個々のユーザーが「見たがる」動画を把握し、関連動画を次々に表示していきます。ちょっと好きなアイドルや芸能人の動画を見ようと思っただけなのに、気づいたら何時間も関連動画を見続けていた、という経験をされたことがある方も少なくないでしょう。これ自体は、YouTubeも非常に重要な仕組みだと考えており、前述のケヴィン・アロッカさんも「極めて効果的」であると評しています。ちなみに2013年には、米国テレビ芸術科学アカデミーが、このレコメンデーションのアルゴリズムに対して技術・工学エミー賞を授与しています。

 人々が見たいと思っているものを見せ、それによって長く動画を視聴してもらう――これはTikTokを運営する中国のメディア企業、ByteDanceも採用している戦術であり、彼らは高度なAIを活用することでより精度の高いレコメンデーションを実現しています。具体的には、あるユーザーにお勧めを行う際、そのユーザーがどのようなコンテンツをどのくらい視聴したかといった点はもとより、タップやスワイプといった画面操作に至るまでユーザー行動を把握し、そこから割り出された趣味や嗜好に基づいて、コンテンツの選択・加工・配信を行っています。

 実際に、米国のビジネスニュースサイトBusiness Insiderの取材によると、ある編集者が研究のために夫婦でTikTokをインストールしたところ、翌日には2人にお勧めされる動画はまったく別物(奥さんには子供など可愛い系の動画、編集者の旦那さんにはセクシーな女性系の動画)になっていたそうです。このような対応を進めていることで、TikTokのユーザー1日あたり平均利用時間は50分強にも達しています。

 そのユーザーが見たいと思っているものが無害なもの、例えば動物による癒し映像であれば、愛くるしい子猫の動画を浴びるように見ても問題ないでしょう。しかし陰謀論や、人々の対立を招くような主張であれば、人々は関連コンテンツを見続ける中で、そうした考え方をより過激にしてしまいかねません。これは「サイバーカスケード」と呼ばれる、実際にネット上のさまざまな場所で見られる現象です。

 だからこそYouTubeは、前述の通り、レコメンデーションの対象から陰謀論的なコンテンツを外すという決断を下したわけです。ただ「陰謀論」に該当するコンテンツを正しく除外できるかどうか、現時点では未知数です。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)『YouTubeの時代』(ケヴィン・アロッカ著、NTT出版)など多数。


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