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「アベンジャーズ/エンドゲーム」超ヒット マーベルだけがなぜユニバース化に成功したのか(1/3 ページ)

» 2019年05月21日 15時52分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 今年のゴールデンウィークといえば、「アベンジャーズ/エンドゲーム」に尽きる。西田はすでに、公開初日の夜(4月26日金曜)にIMAX 3D・字幕版を見て、翌日に2D・吹き替え版を「おかわり」している。そのくらい衝撃を受けたし、素晴らしい作品だったと思う。

photo アベンジャーズ/エンドゲーム

 今回は、「アベンジャーズ/エンドゲーム」、そして、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)がどうすごかったのかを語ってみたい。

 といっても、筆者は映画評論家でもアメリカンコミックの専門家でもない。多少なりとも「映画ビジネスを知っている」くらいのものだ。その立場から、あまりストーリーには触れずに、MCUがいかに画期的なビジネスであったか、そして、それがいかに困難なことであったかを分析してみよう。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2019年5月13日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから。

連ドラ的「ナラティブの物量作戦」がMCUの秘密

 「エンドゲーム」は、なかなか大変な映画だ。1本の映画としてみるといびつな存在である。出てくる人物の背景や関係は、エンドゲームだけをみてもよく分からない。エンドゲーム以外のMCU作品を見ていないとついていけない部分があるはずだ。

 映画自身は、長いものの構造が複雑な作品ではない。ビジュアルの力もあり、MCUを見たことのない人でも、ストーリーがわからなくなる、まったくつまらない、ということはあるまい。そこはさすがに配慮されている。

 だが、MCU21作品(エンドゲームを入れて22だ)+中核となるドラマシリーズをすべて見ていて、細かなシーンやキャラクターのエピソードをすべて憶えている人ほど、より味わい深くなる。ひとつひとつの要素は、ファン同士なら「こうして欲しいよね」「こうだといいなあ」と思うような、ちょっとしたことだ。だが、それらをあますところなく盛り込んで、量と質の上で「ファンの期待にすべて答えた」のが、エンドゲームのひとつの本質、といえる。

 それは別の言い方をすれば、「MCUという物語世界がそこにある、ということへの納得感を高める要素を突き詰める」作業、といってもいい。

 物語やゲームなどでは、こうした要素を「ナラティブ」ということが増えているが、MCUとエンドゲームは、作品をつなげることで、ナラティブの物量展開を徹底した作品群、という言い方もできるだろう。

 物量から生まれるナラティブ、という要素は、実は珍しいものではない。シリーズもののドラマやアニメ、コミックなど、特に長寿なものは、積み重ねによるナラティブが必然的に生まれる。

 そもそもこうした構造は、連続ドラマにおいて生まれやすい。ヒットすれば数年にわたって視聴され、ファンも増える。アメリカのドラマ、特にヒットして何シーズンも続いているものは、こうした「物量によるナラティブ」が生まれやすく、ファンの強化につながっている。特に「スタートレック」や「ゲーム・オブ・スローンズ」のような、いわゆるSF/ファンタジーもの(英語ではSci-Fiとも呼ばれる)ものは、こうした特徴を持つ。

 だが、物量によるナラティブは、消費する側が「大量の作品につきあっている」ことを前提とする。そのため、新作としてはリスクがある。そして、そのシリーズコンテンツ全体の人気が落ちると、リスクはどんどん大きくなる。

 だから、映画ではこの種の手法はあまり採られていない。毎回新しい顧客を集めるべきだからだ。「スターウォーズ」はかなり積み重ねが多い作品だが、それでも、各作品の間で積み重ねる情報は意外とシンプルで、それ以外の要素は「ファンが知っていれば楽しい」レベルに、自制的に抑えられている。

 だが、MCUは初期からそうした積み重ねを積極的に行った。もちろん、作品によって「積み重ねる量」は違う。だが、もっともヒットが期待されており、「いちげんさん」も引き入れたいはずの基幹作品である「アベンジャーズ」シリーズに向けて積み重ね、「エンドゲーム」では、積み重ねを生かすがゆえに3時間という上映時間にまでなった。

 映画としては禁じ手のようなやり方だが、結果として、22作品+αについてきたファンの心をわしづかみにした。そういうファン(筆者もその一人だ)は、涙なしには見られない大団円。ドラマシリーズの最終回のような構造の映画であることが、MCUの特徴であり、特別な点なのである。

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