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「アベンジャーズ/エンドゲーム」超ヒット マーベルだけがなぜユニバース化に成功したのか(2/3 ページ)

» 2019年05月21日 15時52分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

自社でやるから「意識統一」ができる

 こうしたことは、当然ビジネス上リスクを伴う。すべての作品が一定以上支持されていて、世界観を守っていて、きちんと次にバトンを受け渡している状態でないと、成功し続けることができないからだ。

 事実、MCUの成功後、同じような「ユニバースもの」の構想が多数生まれた。しかし、MCUのような成功はどこも生み出せていない。スターウォーズですら、スピンオフの評価はまちまちであり、MCUほどの積極展開はしていない。それぞれの映画でクリエイティビティを発揮していくと、平行する作品でつながりを作るのは難しくなる。結局、「1本の線」のように構成するしかない。だが、MCUは枝葉のように構成されていて、構造がまったく異なる。今のところ、「ユニバース化による物量ナラティブでのビジネス成功」は、マーベルスタジオしか成功できていない。

 そもそも、マーベルスタジオも、MCUがスタートした11年前、きちんとこの構想をもっていたか、というと、そこまででもなかったように思う。

 マーベルスタジオは1990年代に設立されたが、いまのような態勢になったのは2000年代後半からである。マーベルキャラクターのことを一番知る同社は、「自分達が映画を作れば、映画同士の整合性をとって一体的なビジネスができる」と考えていた。パートナーとしてライセンスを「貸し出す」形では、結局映画会社側の思惑が強くなり、原作の持っている強烈な「物量ナラティブ」を生かすことができないからだ。

 とはいえ、お金がなければ制作はできない。マーベルスタジオは2005年、メリルリンチから5億ドル2500万ドルの資金調達を受け、自社制作に乗り出した。この資金により10作品の映画が作られることになったが、2009年にディズニーがマーベルを買収し、ディズニー配給による制作体制になることで、「作っている最中の別の作品とつなぐ」というやり方が要素として定着していった感がある。

 ディズニーは強い会社だが、1990年代まで、「ハイティーンに弱い」と言われてきた。ローティーン以下と大人をカバーするコンテンツは持っているが、ハイティーンが好むものをもっていなかったわけだ。結果として、スターウォーズを擁するルーカスフィルムとマーベルを買収することで、ハイティーン(+ハイティーンコンテンツを好む大人)向けコンテンツを得た、という部分がある。

 マーベルスタジオ側に確固たる意思と方針があったこと、それをディスニー側が理解して手綱を預けたことが、他の映画会社の「ユニバース展開」とは違ったのだろう。

 とはいえ、マーベルスタジオが手がけたすべての作品が、ちゃんと「MCU」になっているか、というとそうでもない。

 例えば、Netflixが出資して作った「アイアンフィスト」「ジェシカ・ジョーンズ」「デアデビル」などの作品は、MCUの冠はついているが、ちょっとした台詞以外にMCUとの関連は薄い。Netflixでの取材中、「これらのドラマはMCUだが、MCUに出てきたキャラクターなどは出る予定はなく、強い関連をつけることもない」と、マーベル側のプロデューサーがコメントするのも聞いている。

photo Netflixのマーベルヒーローたちは別に「ディフェンダーズ」を結成している

 一方で、ディズニーが配給に関わった(放送局がディズニーABCドメスティック・テレビジョンである)「エージェント・オブ・シールド」「エージェント・カーター」は、MCUとの関連がとても強い。

 どこが制作に関わり、どれだけMCUの中核スタッフが関われるかによって、ユニバースの一体感が大きく変わる。今秋にアメリカでスタートする「Disney+」で配信予定のオリジナルドラマは、かなりMCUに密着した作りになると言われているのだが、これはやはり、自分達のコントロールの下で作っているから、という要素が大きいのだろう。

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