公共交通機関のインフォメーションや案内板には旅の楽しみがいっぱい詰まっている。今回は身近でリーズナブルなフィールドワークと旅の手段として、東京近郊の鉄道をテーマにフォントの旅をスタートしてみよう。特急列車や観光列車に乗って旅するだけではなく、いつもの通勤や通学でも視点を変えてみると、フォント探求の楽しみが増してくる。
スマートフォンやSNSの普及で、誰もが気軽に情報を発信できるようになった今、「どう発信するか」を考える上で、欠かせないのがフォントやデザインです。「最近ここのフォント変わったな」「このロゴどうやってデザインしたんだろう」と、身近な文字が気になっている人も多いのではないでしょうか。
この連載では、街角やビジネスの現場など身のまわりにある文字をきっかけに、奥深いフォントとデザインの世界をご案内します。いつも使っているスマートフォンやデジタルカメラを片手に、ひとときの「フォントの旅」を楽しんでみませんか。
1980年代末からパーソナルコンピュータをデザインワークに取り入れ、1990年代〜現在までグラフィック、エディトリアルデザインの分野でフォントの適切な使い方にこだわったデザインワークを続ける。「ITmedia NEWS」のロゴの「ITmedia」部分のデザインも担当している。
再開発が急ピッチで進む渋谷は東急電鉄の拠点として発展した街でもある。その渋谷をスタート点として東急東横線に乗ってみた。地上部分は駅前や銀座線渋谷駅など工事中のエリアも多いが、東横線、田園都市線の地下通路はかなり整備されてきている。工事に伴って乗車や乗り換えの動線がさらに複雑になってしまったことから、路線への案内となるサインの配慮がなされてきている。その例がラインカラーによるゾーニングと多言語対応だ。
※ラインカラー:日本の鉄道路線や運転系統ごとに定められた色のこと(Wikipediaより)
乗車してみると、新しい車輌には必ずといっていいほど、平面ディスプレイによるサイネージや運行案内が車輌内部の側面上に設置されている。これは東急線に限らず、首都圏の私鉄や地下鉄にも採用されているのでご存知の方も多いだろう。私もこの表示を眺めながら電車に乗るのが楽しみで、車内が混雑している状態でも気持ちを和ませてくれる存在だ。そこで、この表示にどんなフォントが使われているのかを調べてみると興味深いことがわかった。これについては東京急行電鉄の広報グループ、広報企画の方々へのメール取材によるご協力をいただいている。
東急東横線の車輌内の広告や情報案内など、ディスプレイ表示に使われている「TOQビジョン」と呼ばれる映像表示システムの横、もしくは乗降ドアの上に設置されている路線案内ディスプレイのシステムは、市販の日本語フォントではない。三菱電機がトレインビジョン用に新規開発したものだ。この意匠および権利は三菱電機が所有しており、「しぶや」「ようが」のように、濁点の有無が判別できるよう特別に工夫された書体である。
この目的のために、和文は「TBViewゴシック」、欧文および数字書体は「Triumvirate」というフォントが開発された。なぜこのフォントを使うシステムを採用したのかという問いには、あらゆる年代層に対して「わかりやすく」「読みやすく」「読み違いのない」ことを実現するためだと回答。たしかにこのフォントは読みやすい認知しやすいフォントの好例だ。
それだけではない。フォントとデザイン面の配慮として、利用者にとって文字が問題なく(正しく)判別できるフォントで、かつ適切な文字サイズを決定。さらに、色覚特性を有する方(赤緑の判別がしにくい、できない)にも情報を判別していただけるよう、背景と同系色にならないように色配置も配慮されている。
駅名表示や英文での表示について「字数の長短で発生するデザイン/レイアウト/色彩上の工夫をどうしたか」という問いに対しては、名詞における漢字・ひらがな・英語表記の判別できる時間を、実際にリサーチした結果をもとに適切な表示を採用しており、色覚特性を有する利用者にも配慮した「ユニバーサルデザイン」を目指して採用したとのコメントをいただいた。
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