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条件は「支援金額1000万円」 キングジムの電子メモ「カクミル」、商品化までの長い道のり体当たりッ!スマート家電事始め(1/2 ページ)

» 2019年06月03日 09時41分 公開
[山本敦ITmedia]

 キングジムの「カクミル」(EM10)は、手書きのメモにアラームを設定することで、忘れてしまいがちな予定などを知らせる「電子メモ」だ。画面に4.3インチ電子ペーパーを採用し、電源オフでも書いた内容は表示されたままという紙に近い使い勝手も実現した。そしてカクミルが話題になったもう一つの理由が、クラウドファンディングを活用して「商品化を勝ち取った」ことにある。

カクミルは手書きのメモにアラームを設定できる電子メモ。シックな「ストーングレー」(左)と明るい印象の「スカイグレー」(右)がある

 カクミルは、2018年7月25日から10月30日までクラウドファンディングサイトの「Makuake」で支援を募り、見事に目標金額の1000万円を達成。5月31日に一般販売を開始した。企画開発を担当した東山慎司氏(開発本部 商品開発部 デジタルプロダクツ課リーダー)に経緯を聞いた。

キングジムでカクミル(EM10)の企画開発を担当した東山慎司氏(開発本部 商品開発部 デジタルプロダクツ課リーダー、写真=左)と、スマートボールペン「インフォ」(INF10)を担当した佐藤賢亮氏(開発本部 デザイン設計部 エンジニアリング課リーダー、写真=右)。インフォは次回取り上げる

「マメモ」の後継機を作りたい

 以前から「繰り返し使えるエコロジーな“デジタル付箋(ふせん)”を作りたい」と考えていた東山氏にとって、カクミルは二度目の挑戦だ。キングジムが2011年に発売した電子メモ「マメモ」(TM2)の開発にも携わっていたが、反射型液晶を使っていたマメモには、ユーザーから「画面が暗い」「一定の時間で画面が消えてしまう」といった不満の声が寄せられていたという。結局、生産終了後も後継機は登場しなかった。

キングジムが2011年に発売した電子手書きメモ「マメモ」(TM2)

 長らくマメモの後継機を作りたいと考えていた東山氏は、低消費電力で画面を常に表示しておけるデジタルペーパーがデジタル文具と相性が良いことに着目していた。2年ほど前、キングジム社内で行われた新商品の企画会議でデジタルペーパー搭載の「次世代マメモ」をプレゼンテーションしたが、高価なデジタルペーパーを採用すると商品価格がマメモの倍近くになってしまうこと、そして電子メモの需要に対する懐疑的な意見もあり、商品化には至らなかった。

 東山氏はあきらめなかった。次のプレゼンの機会をうかがいつつも、「同じものを提案しても通る見込みはない」と考え、To Doリストやカレンダー、アラーム時計などの機能を追加したプロトタイプを作った。

メモとして使わないときは置き時計になる(写真は製品版のカクミル)

 そしてあるとき、「クラウドファンディングを利用する」というアイデアを思いつく。うまくいけば開発資金を調達できる。また「電子メモに対する市場の“生の声”を集められる」という期待も大きかった。

 やがて訪れたプレゼンテーションの機会で、カクミルのプロトタイプとクラウドファンディングサイトのMakuakeを活用することを提案し、「プロジェクト開始の決定権を持つ役員クラスの上司からも好感触を得た」という東山氏。しかし、思い通りの結果にはならなかった。まずクラウドファンディングのみを試すことになり、荷物の見守りセンサー「トレネ」が初のプロジェクトに選ばれた

2017年に発売された「トレネ」。スマートフォンとBluetoothでペアリングして使用する、荷物用の見守りセンサーだ

 トレネのプロジェクトは成功し、東山氏は「この機を逃すまい」とカクミルのブラッシュアップを急ぐ。プロトタイプには加速度センサーを内蔵し、本体の縦置き・横置きを感知して自動的に画面を上下反転するようにした。専用のタッチペンはマグネットで本体に装着するなど、現在の製品版に近い姿になった。

 その後、カクミルのクラウドファンディング実施も決定したが、手放しで喜べる状況ではなかった。トレネはクラウドファンディングを行う前の段階で商品化が決まっていたため、Makuakeで集めなければならない目標金額が50万円と低めに設定されていた。ところがカクミルは商品としての市場性をよりシビアに問うため、1000万円という高いハードルが設けられたのだ。

 Makuakeのカクミルプロジェクトページには、こう書かれている。「社内会議でボツになった企画案を目標金額1000万を条件に最終ジャッジする本気プロジェクト」。不安を抱えたままのスタートとなったが、18年10月末のプロジェクト終了時には1342万円(目標の134%)の支援が集まっていた。東山氏の執念、もとい情熱が実を結んだ瞬間だ。

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