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» 2019年06月07日 07時00分 公開

NHK問題、なにが軸なのか (2/2)

[西田宗千佳,ITmedia]
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ネットとNHKの微妙な関係

 さて、PCやスマホのうち、テレビチューナーを内蔵しない、ネットからの視聴を前提としたものはどういう扱いになるのだろうか?

 実は過去には、「ネット配信になってPCなどで視聴できるなら、それらすべてから徴収すべき」との意見もあり、NHKもそれに傾いていた時期がある。

 だが、今はそうではない。

 ポイントは、「ネット配信は全国民が同時に見るのが難しい」ということだ。ネット配信は「同時視聴」に弱い。大きく見えるサービスでも混み合うととたんに遅くなる。これは、今のネットとコンピュータのアーキテクチャの欠点でもある。カバーするには、とにかく余裕をもったインフラを構築する必要がある。

 現実問題、「日本の全世帯が同時に視聴できる」インフラを整えると、いくらかかるかわからない。その常時運用のためのコストも大変だ。

 もし、NHKが本当に放送と同じように「見れる可能性のある人全員から徴収」という方針にするなら、「全員が同時に見ても問題ない」インフラが必要になる。それは、コスト的に合わない。

 だが、現実問題として、ネット配信はテレビほど同時に見られることない。放送という「多数の人が同時に見る」ことに向いたメディアと、ネットという「好きな時に好きな場所で、人々がバラバラにアクセスする」メディアは補完関係にある。ネットは「利用する意思」を把握しやすいため、必要な分だけインフラを整えやすい。

 そもそもが「世帯単位」課金であるNHKの受信料なのだから、さらにネットから集めるとしても、数はそこまで増えない。

 NHKとしても、「ネット端末すべて」にこだわるとむしろ収受の効率が悪くなり、藪をつついて蛇を出しかねないので、現実的な路線に落ち着いている。すなわち、「補完関係なので、放送料と一体にする」「視聴意思があり、しかもテレビでの受信契約がない場合にのみ、ネットから受信料をとる」という仕組みだ。

 仮にこの先、「放送で見る人がいなくなったので、ネットを使っている人は皆視聴できるものとする」としたとしよう。そうなると、チューナーがあるテレビを持つ世帯すべてに課金するように、ネット端末を持つ世帯すべてに課金する可能性は出てくる。だが、そういう時代になると「ネット端末のない家庭」を想定するのが難しくなり、実質的に「ネット利用税」的な立ち位置になってしまう。すると、「公共放送なので税ではない」というお題目と矛盾する。

 この辺に本気で改善するならば、「NHKという存在」にメスをいれなければ矛盾を解決できない……という話になるのである。だからNHKは、「現実的路線で考えざるを得ない」のである。

 さらに、NHKのネット配信進出には、民放からの「民業圧迫」という指摘がある。以前から進められてはきたが、税的な性質もある「受信料収入」があるところがネットへ出て行くと、ネットで収益をたてようとしている民放のネット事業を圧迫するのでは……という議論だ。

 そのため、2008年に「NHKオンデマンド」がスタートした時には、「営利目的としない」「受信料を一切使わない」というルールが定められた。鉛筆一本の会計すら、NHKとは分けられている。NHKオンデマンドが別会計型の有料サービスになっているのはこのためだ。

photo NHKオンデマンド

 はたして、本当にこの建て付けは正しいのだろうか。少なくとも「見逃し配信」については、そろそろ放送に付随するサービスとしていいような気がする。

矛盾が生む感情のもつれ、いつかは「グランドデザインの議論」が必須に

 こうした問題が面倒くさい(あえて言葉を飾らずこう表現する)のは、思想・信条的に「NHKが我慢ならない」という話とリンクしてしまうことだ。

 NHKの報道姿勢や内容に不満があるため見ない・見たくない、というのは個人の自由である。そう思うのもわかるし、どう感じるかは自由だ。

 一方で、現状日本では「テレビを置く」限りにおいて、NHKとの受信契約を回避するのは難しい。いや、正確には「揉めずに回避するのは」難しい。

 また、NHKの受信料はいまだ「家庭への集金」によって収受されている場合があり、その際の手法などとの兼ね合いで反感を持つ人も少なくない。

 要はNHKに不満があっても「支払わない」選択が難しく、さらにはこれまでのNHKの姿勢もあり、「税のごとく、とにかく搾り取ろうとしているのではないか」と疑念を持つ人も多い。だから、放送法が改正されると、NHKに対して快く思わない人が多く出てくる傾向にある。

 そしてその議論は、世帯単位での契約、というNHKの建て付けにより、「一切テレビをもってない、もしくはNHKを一切見る意思のない」人をのみを対象とするものになり、実際の影響の大きさ以上に、大げさな議論になりがちだ。

 NHKの存在の是非や放送法上での扱いの議論と感情的な議論をきれいにわけるのは難しく、問題を語ることが「面倒」になっているのは否めない。これは筆者の偽らざる印象だ。

 NHKには問題があり、放送法上の扱いにも矛盾があるのだが、それをどうやれば制度的に解決できるのか、本来は、「国営放送にすべきか」といったレベルも含めた議論が必要だ。

 例えば、イギリスのBBCはNHKと同じ「公共放送」であり、受信料収入で成り立っているが、その徴収方法は日本よりはるかに強制力がある。BBCの受信料は「TVLicensing」、すなわち「テレビ所有権」として設定されている。ビデオであろうがテレビであろうが、受信可能な機器があれば支払わないといけない決まりで、払っていない場合はテレビなどの購入と同時に支払う必要がある。年額154.50ポンド(約2万130円)で、支払わない場合の罰金は1000ポンド(約13万6800円)と額が大きい。日本のNHKと同じように、支払いについては国民からの人気がない。

 だが、支払い比率は95%前後と、日本の81.2%に比べ高い。

 一方で、このくらいの徴収率なので、「同じコンテンツをネットに流す」時の料金議論などはほとんどなかったようだ。事実、BBCのコンテンツはほぼすべて、ラジオもテレビも、ネットからも放送と同じように見れる。もちろんオンデマンドでもだ。BBCの関係者は「自分の子の世代になって、番組をテレビで見ているとは思えない」と言っている。

 韓国のKBSの運営費は韓国電力公社の電気料金に含まれ、さらに広告も入っている。

 フランスのように政府全額出資で税金として徴収し、実質的に「国営放送」となっているところもある。

 どのモデルがいい、というつもりはない。NHKの収受の方法に矛盾や不公平は確かにあるが、だとすれば、放送番組の利用形態を含め、グランドデザインとしての議論が必要なのだ。

 今は逃げていられる。だがそのうち、冷静にやらないといけないのではないか。

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