お坊さんが寺の運営におけるIT活用について意見を交わすイベント「テラテク!」の第1回が、6月12日に都内で開かれた。エンジニア経験のあるお坊さんや、宗教法人の会計税務に詳しい税理士らが登壇し、お坊さんにおすすめのITツールを紹介したり、参加者同士でお寺の課題を共有したりした。
クラウド会計サービスなどを手掛けるfreee(東京都品川区)が主催。精密機器メーカーでエンジニア経験のある小路竜嗣さん(善立寺 副住職)や、ITベンチャーでビジネス開発経験のある海野峻宏さん(寳林寺 新堂)、宗教法人などの会計税務を数多く手掛けてきた赤田貴志さん(税理士法人ゆびすい)が登壇。“お坊さんによるお坊さんのための”ITツール活用について講演した他、ワークショップでは、参加したお坊さんの抱える課題に対しアドバイスをした。
小路さんはイベントで「お寺には事務仕事が多過ぎる」と話す。お坊さんの生活は主に法事の案内状作成や会計処理のような事務作業や、法務と呼ばれる僧侶としての務め、そしてプライベートで成り立つ。多くの寺は人材不足に悩まされており、1〜2人で24時間365日運営されているのが実態だという。
事務作業に時間を取られると、法務を減らすかプライベートな時間を犠牲にすることになる。小路さんによれば、宗教家の過労死予備軍割合は教員や医師に比べても高いとする調査結果もあるという。
「お坊さんは人々の悩みを聞けるが、寺運営の悩みは解決できない。自分で働きかけなければ、誰もお坊さんの課題を解決してくれない」──小路さんはそんな思いからITを活用した事務作業の効率化に目を付け、IT系の展示会を訪れたり、寺とITに関する記事を執筆したりと、IT企業とお寺をつなげる活動を始めた。
寺とITの掛け合わせと聞くと、「神社のさい銭をコード決済でキャッシュレス化」といったユニークな事例を思い浮かべるが、イベントではより実務に役立つ具体的なツールやテクニックが紹介されていた。
例えば、事務作業の効率化を図るために領収書や契約書はドキュメントスキャナーで読み取り、ファイル共有サービスを使って時間や場所に縛られずに閲覧できるようにするなどだ。登壇者らは「書類のデジタル化は紙を完全に廃止することを考えるのではなく、いかに効率的に紙を使うかという発想が重要である」と強調する。
寺は法事などの際に出欠確認の案内状をはがきで関係者に送ることがあるが、これらはWebのフォームを使うなどの手段も考えられる。しかし、それは適切ではないという。はがきを受け取る相手の年齢層が幅広く、全員がITツールを使いこなせるわけではない。実際に回答率が大きく下がってしまうからだ。はがき作成ソフトやプリンタを活用するなど、はがき作成の効率化を図る方法を模索することが望ましいとした。
他にも「スキャナーを使った古文書のデジタル化で、シミや虫食いといった劣化を画像加工ソフトで修繕する」「重要文化財を数多く管理する寺では、配線不要なクラウド接続型の防犯カメラを使う」など、大規模な施設で行われている取り組みは、身近なITツールでも実現できることを紹介した。
小路さんはお寺の課題解決について、「お寺とIT企業とのつながりは弱く、お寺が困っているということは知られていない。お寺の課題を声に出して理解してもらうことが重要だ」と来場者に語った。
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