今年3月、大阪メトロの英語サイトが路線名の「堺筋線」を「Sakai Muscle Line」と誤訳していたことがネットで話題になりました。米Microsoftの自動翻訳ツールによる翻訳をそのまま掲載していたことが原因です。
「さすが大阪、ボケ方が半端ない」などと友人にからかわれてしまったのですが、この事件には根深い問題が隠れています。
Google翻訳を使うと、いまでも堺筋線は「Muscular line」で、三両目は「Third eye」と訳されます。精度が高いと評判のGoogle翻訳でも誤訳しているわけですが、何より大阪メトロの件が話題になった後も特に修正されていないことに驚きました。
外国人観光客がますます増え、2020年の東京オリンピック・パラリンピックも控える中、こうした海外製の自動翻訳ツールを頼るにはやや不安が残ります。
そんな中、国内で気を吐いているのが自動翻訳エンジンの研究開発などを行う情報通信研究機構(NICT)です。明石家さんまさんが軽快にトークするテレビCMでおなじみのクラウド型音声通訳デバイス「POCKETALK」(ポケトーク)や、Google翻訳より高精度だとネットで話題になった「みらい翻訳」にも、NICTの技術が使われています。
なぜ総務省管轄の研究機関であるNICTが、GoogleやMicrosoft、Baiduなど巨大IT企業と競うように自動翻訳エンジンを開発しているのでしょうか。30年以上自動翻訳を研究してきた隅田英一郎氏(NICTフェロー、アジア太平洋機械翻訳協会 会長、日本翻訳連盟 理事、工学博士)に伺いました。
いま話題のAI(人工知能)には何ができて、私たちの生活に一体どのような影響をもたらすのか。AI研究からビジネス活用まで、さまざまな分野の専門家たちにAIを取り巻く現状を聞いていく。
(編集:ITmedia村上)
Google翻訳やMicrosoftのBing翻訳など、大手IT企業が無料の自動翻訳ツールを提供しているのに、日本の国立研究法人がわざわざ自動翻訳を研究する意義はどこにあるのでしょうか。隅田氏は「それは業界ごとに日本企業固有のニーズがあるからです」と説明します。
例えば、とある日本企業が海外で特許訴訟を起こされたとします。裁判では、特許以外にも関連文書など大量の書類を英訳する必要があり、翻訳に手間もお金もかかります。隅田氏によると、海外の特許訴訟費用の大半は翻訳費だそうです。翻訳作業のコスト削減には、自動翻訳が欠かせないのです。
海外の大手IT企業が提供する無料ツールでは、こうした専門性の高い領域のニーズには応えられませんし、セキュリティの問題もあります。大阪メトロの例から分かるように、彼らは特定の国における特定の地域の情報などはあまり気にしていないのです。
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