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名刺管理のSansan、「ほぼ手作業」だったデータ入力はどう進化した? CTOが語った軌跡(1/2 ページ)

» 2019年06月17日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 「本当はテクノロジーに頼りたかったが、求める水準に技術が追い付かない場合は、勇気を出して他の手段を選ぶべきだと判断した」――。Sansanの藤倉成太CTO(最高技術責任者)は、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの年次カンファレンス「AWS Summit Tokyo 2019」のセッションでこう明かした。

 Sansanは2007年創業。クラウド型の名刺管理サービス「Sansan」(法人向け)と「Eight」(個人向け)を提供している。いずれもスキャナーかスマートフォンで名刺を読み取ると、氏名や連絡先、部署などのデータをクラウド上に自動で蓄積する仕組みだ。社名・個人名で検索すると名刺情報を表示できる他、メッセージ機能なども搭載し、ビジネスSNSとしても活用できる。

photo Sansanのオペレーターが名刺情報を手入力する様子

 同社は現在、名刺管理サービス市場で約8割のシェアを獲得。社員数は創業時の5人から477人に増えた。6月19日には東証マザーズへの上場を控えている。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長する同社だが、当初は名刺情報の一部をオペレーターが手入力するアナログな手法を採っていた。

 Sansanなぜ、このような手法を使ったのか。現在はどこまで進歩しているのか。このセッション「Sansanのビジネスを加速させるプロダクト開発とAWS」で、藤倉CTOが技術的側面からこれまでの歩みを振り返った。

名刺は「可能性を秘めた紙」

 藤倉CTOによると、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が知れわたる前に「名刺のデジタル化」を思い立ったきっかけは、名刺が秘める可能性に気付いたことだ。

 「名刺は一見すると“ただの紙”だが、交換した日時とひもづけて管理すると、いつ誰と出会ったか分かる。同じ人物の歴代の名刺を並べると、勤務先やポジションの変遷も分かる。デジタル化すると、業務効率化や人脈づくりにつながると考えた」(藤倉CTO、以下同)

 ビジネスチャンスがあると判断した創業メンバーは、「出会いからイノベーションを生み出す」というビジョンを掲げ、まずは法人向け名刺管理サービスの開発に着手した。

 だが、当時の同社のインフラはサーバ数台のみ。ロードバランサーは大手企業の中古品を使っていた。限られた環境で成果を生むため、当初は機能を多くしすぎず、「正確なデータ化」「簡単なスキャン」など必要最低限のコンセプトに基づいて開発することにした。

photo Sansanの藤倉成太CTO(最高技術責任者)

 しかし、正確なデータ化を目指す上では課題があった。当時のOCR(光学文字認識)ソフトの正確性は90%程度で、「l」(エル)と「1」(いち)といった認識ミスを起こすこともしばしばだった。細かな違いのようだが、メールアドレスは1文字でも間違えると送信できない。わずかなミスがサービスの信頼性を下げる恐れがあったのだ。

 そこで認識精度を高めるため、Sansanは「顧客がスキャンした名刺の内容をOCRソフトで処理した上で、2人のオペレーターが目視でチェックし、認識ミスがあれば手入力で修正する」――というアナログな手法を採用。両者の入力内容が一致しない場合は3人目が再チェックする徹底ぶりで、99.9%を超える認識精度を実現した。

 藤倉CTOは当初、「エンジニアたるもの、人力ではなくテクノロジーで課題を解決すべきではないか」との葛藤もあったというが、悩んだ末に下したのが冒頭の判断だ。

 正確性だけでなく使い勝手も担保するため、顧客企業にはタッチパネルPCと卓上小型スキャナーを貸し出すことにした。スキャンの際は、パネル上でIDを選び、スキャナーで名刺を読み取るだけで完了するプロセスを採用した。

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