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テクノロジーが受容されることの意味(1/3 ページ)

» 2019年06月28日 07時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 6月2日から16日まで、アメリカに出張してきた。Appleから始まり、Amazon、ゲーム業界、Microsoftに映像業界と、例年になく忙しい2週間を過ごしてきた。

 そこで、いろいろ考えたことがある。その軸にあったのは、「テクノロジーの許容と変化」についてだ。

 ぼんやりしたテーマで恐縮だ。自分の中でも、ちゃんと答えが出ているわけではない。だが、ちょっとその辺を外に出して、形にしてみたいと思う。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2019年6月24日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから

re:MARSで見えた「顧客主義」とAI・ロボティスクの関係

 今年の出張では、初開催のイベントを取材した。Amazonのカンファレンスである「re:MARS」である。

 このイベントは、本来、いわゆる「Amazonのイベント」とは趣が異なる。「マシンラーニング」「オートメーション」「ロボティクス」「スペース」という、Amazonが注力している領域について、様々な関係者を集めて話す場、といった方がいい。基本的に招待制であり、有料のイベントだったし、基調講演などが同時配信されたわけではないし、日本のプレスの取材も少なかったので(そもそも、プレス自体、限定された数しか入れなかった)、報道そのものはあまり目立たなかったのではないか、と思う。

 re:MARSで行われたブレイクアウト・セッションについては、YouTubeで無償で公開されている。全編英語でかなり専門的な内容だが、勉強になるセッションが多いので、興味がある方はチェックしていただきたい。

 筆者はAmazon関係者との個別インタビュー取材がたくさん入っていたこともあり、ブレイクアウト・セッションはいくつか狙ったものしか聴講できず、基調講演の取材が中心になった。

photo re:MARSブレイクアウト・セッションから機械学習とAIについてのセッション

 結果的にAmazonのAIおよびオートメーション戦略についていろいろ話を聞くことができたのだが、そこで感じたことはシンプルなことだった。

 AI、マシンラーニングやオートメーションは経営効率化に有効な道具だ。一方で、それを「人減らし」や「コスト削減」という観点で考えると大きな間違いではないか、ということだ。

 例えばAmazon Goは「無人レジ」が注目される。しかし本質は、「リアル店舗の問題点は行列であり、行列のない店を作るにはどうしたらいいか」という検討の結果生まれたものだ。Amazonのフルフィルメントセンターは、世界中で20万台以上のロボットを使っているが、理由は「間違いを減らして配送効率を上げるにはどうしたらいいか」ということだった。

photo 「行列なし、レジなし」をうたうAmazon Go

 どちらも結果的に人は減っているが、人件費の節約が目的ではない。

 もちろん、Amazonが表だって「人がいるとコストや正確性の面で問題」というわけにはいかないだろう。こうしたスピーチは「良い面だけを強調している」部分もある。

 だが、重要なのは「どこを向いて技術開発を行うのか」という点だ。客にとってストレスのない店舗を目指した結果レジに人がいなくなった店舗と、人不足やコスト削減を目的にレジから人をなくした店舗とがあった場合、人が快適に使えるのはどちらになるのだろうか? 前者になるのは必然に思える。配送事故のない配送センター実現のためのオートメーションと、人件費削減のためのオートメーションでも同じことだ。

 逆にいえば、無理なことを機械にさせても意味がない。Amazon Roboticsでは、「車体型」ロボットの開発にリソースを集中している。二足歩行・四足歩行にはほとんど興味をもっていないし、「人間のような自由度を持つロボットハンド」も、まだ未来のものだと考えている。

 人とテクノロジーの競争は、古典的な問題だ。単純なスピードや力では人間はテクノロジーにかなわない。マシンラーニングの高度化により、「判別」についても、人間は機械にかなわない時代がやってきた。そんな中で、人間が仕事を奪われるのはある意味必然だ。

 だが、すべてを機械ができるわけではない。人が不要なわけではない。そして、機械は人のために動く。機械はカネを払ってくれないのだから。

 人と機械はパートナーにならざるを得ない。その時、機械はどちらを向いて作るべきなのか? 広く受容されるシステムを生み出すには、その観点が欠けてはいけないのではないか。Amazonが言っているのはそういうことだと考える。ビジネスとしての成功を目指すにも、後ろ向きな理由より「勝つための前向きな理由」の方が望ましいのはいうまでもない。

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