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ITシニア起業の成功、Salesforceが後押し(2/2 ページ)

» 2019年06月30日 07時42分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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 当時は「いわゆる期間限定のトライアルではなく、無期限の機能制限型の無料アカウントを作ることができたので、半年近く自分で試してみた」ところ、「開発者ではなく、1ユーザーの延長線上で契約者管理システムの構築が可能であり、何にも増して、サーバを準備する必要もなく、初期費用を最小限に抑えることができる点が決め手になった」と明かす。

 トムソンネット自体が保険のスペシャリスト集団なので、契約者管理システムの要件定義はおてのもの。現場のユーザー目線で提案が可能だ。代理店相手のデモはSalesforceの標準的な機能でほぼ事足りることから、「このシステムなら明日からでも導入可能ですよ、と売り込むと驚かれた」という。

 契約者情報を属人的に管理していたと前述したように、それまで多くの保険代理店は、ある契約者が、どの会社のどのような保険に加入しているかを組織的に管理できていなかった。保険と一口に言っても、例えば、各種医療保険、火災保険、自動車保険、ペット保険など、扱う商品も多種多様だ。加えて、その契約者には家族もいる、当然ながら、満期のタイミングだけでなく、家族の入学や進学等、人生の節目等で新たな保険売り込みのチャンスが巡ってくる。「Salesforceで構築したCRMは、組織での情報共有ニーズにピタリとはまった」と笑う。

 法改正も事業の発展を後押しした。2006年に「保険業法等の一部を改正する法律」が施行された際、「少額短期保険」と呼ばれる少額・短期の保険の引受けのみを行う事業が可能となり、異業種から保険事業への参入が急増した。保険事業には独自のノウハウが必要だ、多数のコンサルティング業務が舞込むと同時に、低コストで構築可能な契約者管理システムの需要も急増した。

 ここで注意したいのは、トムソンネット自身は、Salesforceの代理店(パートナー)ではないという点だ。本業は保険業務のコンサルティングであり、代理店向けの顧客管理システムの構築は事業の両輪の1つではあるものの、あくまでもコンサル業務とセットで提供されるという位置づけだ。そのため「我々にとってSalesforceはあくまでもツールであり、それによるシステム構築を事業の根幹としてるわけではない」と強調する。

photo 保険代理店に対し業務コンサルとCRMシステム構築を提供。Salesforceとのユーザー契約は代理店自身が行う

 15年以上も前からSalesforceで小規模なシステムを構築している鈴木氏にとって、他企業の買収を繰り返すなどして肥大化・高機能化した近年のSalesforceにはとまどいを覚えることもあるようだ。特に、大手ベンダーなどが自社でスクラッチ開発した基幹・勘定系システムと連携させるなど、最近の大規模導入事例について語るその目には、15年前の牧歌的な時代を懐かしむ色がにじむ。

 インタビューの最後に、システム構築にまつわる面白いエピソードを教えてくれた。多くの代理店は、帳票など紙への印刷機能の実装を要求するという。そのような場合、Salesforceは、基本的にブラウザから利用するクラウドのシステムなので、別途印刷用のアプリケーションを追加するなどしないと対応できない。そういった顧客には、最初に「印刷は本当に必要ですか」と問いかけるという。

 「契約者の個人情報などを印刷した瞬間に、漏洩リスクが高まることになる。また、業務上の数字などの情報は刻一刻と変化している。そのような情報はブラウザの画面で都度確認すればいいはず」とユーザー自身に頭の切り替えを促すという。「個人情報保護が叫ばれるようになってからは、この考え方を理解してくれる人が多くなった」という。戦後すぐの1947年生まれで今年72歳になる鈴木氏だが、Salesforceとの長い付き合いのなかで、その思考回路は完全にクラウド人になっているようだ。

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