「YouTubeの時代」訳者の小林啓倫氏が切り取る「動画の時代」連載第6回目。訳がわからないのに流行っている謎動画について。
この連載の第1回で、YouTube上では、誰もが好きな「ペット動画」よりも人気のカテゴリーが存在しているという話をしました。それがいったい何だったか、覚えていらっしゃるでしょうか?
答えは「教育」カテゴリーです。YouTubeのトレンド・カルチャー統括部長を務めるケヴィン・アロッカさんが、『YouTubeの時代』(NTT出版)の中で次のように解説しています。
私は誰かにこの話をする瞬間が好きなのだが、実は私たちが「教育」カテゴリーの動画を視聴するのに費やす時間は、「ペットと動物」カテゴリーに費やす時間の10倍に達している。そう、10倍だ。
ペット動画といえば、ソフトバンクのCMで岡田准一さんも「猫は見ちまうんだよー!」と叫んでいるように、「ギガ」を消費してでも見たくなるほどの(?)人気カテゴリーです。しかし「教育」カテゴリーがその10倍見られているということは、それだけ人間の知識に対する欲求が大きいということなのかもしれません。
実はアロッカさんの話は、ここで終わりではありません。教育に肩を並べるほど、多くのアクセスを稼ぐ別のジャンルがあることが解説されています。それはYouTube上で「カテゴリー」として独立しているわけではないのですが、多くの人気動画にこの要素が含まれていることをアロッカさんは指摘しているのです。
さらに言うと、それは知識とはある意味で対極にある存在なのですが、いったいどのような要素なのでしょうか?
本書の中で、その典型例として紹介されている動画「tmpdKHvbS」を貼っておきましょう。
いかがでしょうか。ほんの10秒ほどの短い動画で、さまざまな赤と青の長方形がランダムに表示され、それに高音が被さるという内容。ペット動画の可愛らしさも、教育動画が提供する知識もありません。それなのに、この動画は現時点で73万回以上再生されています。
投稿者は「Webdriver Torso(ウェブドライバー・トルソー)」。彼、もしくは彼女は同じような動画を50万本以上も投稿しており、この原稿を書いている時点で、8時間前にも新しい動画を投稿しています(ちなみにこの動画も既に2489回再生されており、コメント数は184件となっています)。
Webdriver Torsoがこの謎動画を投稿し始めたのは、2014年のこと。この年の夏、たった2〜3週間の間におよそ8000本もの動画が公開され(それもほぼすべてが上記のような内容)、「いったいこれは何なんだ?」と大きな注目を集めました。大手メディアでも取り上げられたので、知ってたよという方も多いかもしれません。
実はこれ、ケヴィンさんのYouTube社内の同僚が制作・公開していた動画でした。「YouTubeアップロード」というチームが、彼らのプラットフォーム上で使う動画圧縮技術をテストするためにアップロードしていたのです(ちなみに担当していたのは、エカテリーナという名のロシア人エンジニアだそう)。
テストなので当然他人に見せるわけではなく、タイトルも「tmpdKHvbS」のように無意味な文字の羅列にしていたので、まさか誰かに見つけられて、ここまで注目されるとは思っていなかったそうです。実際に「tmpdKHvbS」の再生は、紹介リンクから行われたものがほとんどだった(つまり動画を偶然発見した誰かが、「これは何だと思う?」と他人と議論するためにリンクを貼る、という行為が繰り返された)といいます。
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