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» 2019年07月31日 15時36分 公開

動画の世紀:世界は謎を求めてる 謎の人気動画 (2/2)

[小林啓倫,ITmedia]
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大ヒットドラマが散りばめる「オモチャ入りのタマゴ」

 ケヴィンさんはこうした動画のことを、「オモチャ入りのタマゴ」に例えます。これはいったい何なのだろう、中に何が入っているのだろう、どんな風に遊べるんだろう――というわけです。そして知識というゴールに至るよりも、そこに至る道筋、すなわち「謎」の方が時には注目を集めるのだと指摘しています。

 ケヴィンさんが「オモチャ入りのタマゴ」という表現を使ったのには理由があります。それはYouTube上で、無数の「オモチャ開封動画」があり、大きな人気を集めるジャンルのひとつになっているからです。

 例えば以下の動画は、このジャンルで世界的に有名なチャンネルの1つ「FunToys Collector Disney Toys Review」が2014年7月に公開したもので、現時点でなんと約6億回も再生されています:

 内容は他愛のないものです。ディズニープリンセスをモチーフにしたオモチャを開封し、実際に遊んでみるシーンを流すだけ。しかしこうした動画は子供たちに大人気で、日本でも同様のチャネルが無数に存在し、人気を集めています。私自身、甥っ子が小さかったときに、彼らが某オモチャ紹介チャンネルを一心不乱に見ていたことをよく覚えています。

photo 子供たちに大人気のFunToys Collector Disney Toys Review

 なぜ子供たちはこうした動画にはまるのか。それは彼らが、大人たちが「スリルとサスペンス」に感じるのと同じ興奮を覚えているからではないか、と指摘する研究者たちが存在しています。

 シェフィールド大学の研究者ジャッキー・マーシュさんは、オモチャ動画の流行現象について研究し、2015年に発表した論文において、「中にオモチャが入っているタマゴを開くような、嬉しいサプライズ」についても、子供たちはスリルとサスペンスを感じ、したがってこうした「オモチャの箱を開封するシーンのある動画」は、ミステリー小説にも共通する構造的要素が含まれていると指摘しています。ケヴィンさんはこうした研究結果から、「オモチャ入りのタマゴ」が大人も子供も惹きつける要素であると解説しているのです。

 ちなみにこの「オモチャ入りのタマゴ」を、J・J・エイブラムス監督は「ミステリーボックス(謎の箱)」と表現し、TEDでこんな講演を行っています:

 この中でエイブラムス監督は、手品用グッズが入った未開封の箱を取り出します。彼はそれを何十年も前に買ったそうですが、ずっと開封せずに持ち歩いていると説明。そして「時として謎が知識より価値を持つ場合もある」象徴として、観客に提示するのです。

 J・J・エイブラムス監督といえば、テレビドラマ『LOST』シリーズが大ヒットしたことでも知られていますが、同作品をご覧になった方であれば、この中に無数の「ミステリーボックス」あるいは「オモチャ入りのタマゴ」が登場したことを、よく覚えているでしょう。

 日本でもいま、日本テレビ系で『あなたの番です』というミステリードラマが放送されており、ザテレビジョンのWebサイトが公開している「視聴熱」ドラマランキングで1位を獲得するなど、人気を集めています。このドラマでも、毎回いくつもの「ミステリーボックス」が登場し、謎が謎を呼ぶという展開になっています。

 一説によれば、ミステリー作品の原点は旧約聖書外典『ダニエル書への追加』に登場する「ベルと竜」という話なのだとか。この外典が成立したのは、紀元前2世紀から1世紀初めにかけてだそうですから、2000年以上前の作品から最新のテレビドラマまで、人間はずっと謎を追いかけているようです。

クリックベイトにご用心

 とはいえ、人間のこうした心理は、いわゆる「クリックベイト(アクセス数を増やすために、コンテンツ本体の内容とは関係のない、扇動的なタイトルやサムネイル画像、プレビューなどを用意してクリックを誘う行為)」に利用されかねません。よく「〇〇した結果」などというタイトルが付いた(しかし中身は非常に薄い)コンテンツがSNS上で拡散されることがありますが、それはまさに、皆が「オモチャ入りのタマゴ」に引き寄せられているのに等しい状態と言えるでしょう。

 実際にYouTubeでは、ユーザーへのお勧め動画の中に、クリックベイトと見なされない動画のみを表示するアルゴリズムを開発し、テストしてみたことをケヴィンさんが解説しています。その結果、このアルゴリズムが適用されたユーザーの視聴回数は下がってしまったのだとか。YouTubeにとってはビジネス上の利益に反する結果ですが、それだけクリックベイトがユーザーの心を刺激するものだというわけです。

 ところが面白いことに、このアルゴリズムを使い続けたところ、ユーザーは最終的により多くの動画を見るようになったのだとか。その理由は詳しく解説されていませんが、あまりに多くのクリックベイトに「引っかかる」ようになると、ユーザーが警戒して逆にリンクをクリックしなくなるようになるのかもしれません。

 エイブラムスの『LOST』も、そして最新のドラマ『あなたの番です』も、多くの人気を集める一方で、「謎が多すぎてイライラする」や「今回は話に進展がなかった」といった批判もあります。謎と種明かしは、適度にバランスを取らないと、視聴者の関心を維持できなくなってしまうのでしょう。

 とはいえ人間の「謎」への欲求は、なにしろ2000年以上前から続いています。ちょっとやそっとガッカリしたくらいで、次の謎動画や、ミステリードラマに手を伸ばしたいという気持ちを抑えることはできません。そんな気持ちを利用されて、貴重な睡眠時間を視聴や「謎」の考察に奪われてしまうことのないよう、十分注意して下さい。

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