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「ネットが消えた島」の住民が不安に思っていること伊豆諸島航海日誌(2)(2/3 ページ)

» 2019年08月09日 07時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

そもそも、利島以南の島々に“使えるインターネット”はなかった

 ここまで読んで、ネットワークの知識が豊富なITmedia NEWS読者としては「今回使えなくなったのは海底光ケーブル。従来のADSL回線ならネットを使えたのでは」と思ったかもしれない。

 実際、従来のマイクロ波を介したADSL回線は利用可能で、新島村(新島と式根島を含む自治体単位)では、2017年までこの回線でネットを利用していた。通信障害発生後も従来の回線を利用した非常用無線LANアクセスポイントが設置され、NTT東は各事業所にADSLの再導入を勧めているという。

 「従来のADSLが使えたのでは」という疑問を解くためには、ほとんどの住民と事業所がADSLから光回線に移行した理由を知る必要がある。

 新島村が開催した光回線導入説明会では、18年度中に移行した場合、工事費用は村が負担すると話していた。しかし、移行動機は費用負担だけではなかった。

 前田さんは「新島にはインターネットがあってないような状況だった」と振り返る。繰り返し述べているように、伊豆諸島の島々は、本州側とマイクロ波で接続したADSL回線を利用してネット環境を提供していた。

 小久保さんによると、サービスが始まった当初こそ快適に使えたが、利用者が増えてアクセス数が急増したことで通信速度は瞬く間に低下。4〜5年前からは、「Webサイトを開くのに数十分かかる」(小久保さん)ほど“激遅”だったという。

伊豆大島と三宅島、八丈島は海底光ケーブルで接続しているが、その他の島々はマイクロ波でのみ接続しており、通信速度は絶望的に遅い

 一方で、提供されるオンラインサービスは、光回線の高速な通信を前提とした、高機能で大容量なデータ転送を必要とするのが主流だ。

 このような激遅な島のADSL回線では「経理のオンライン伝票を入力するのに1枚20分かかる」「インターネットバンキングで支払処理ができたと思ったら、できていなくてクレームが入る」「Facebookを更新するために(利用者が減る)午前1時に起きて、転送速度を測定してからアップする」など、苦労も多かった。

 そのため「所用で本州に出張した機会に(大容量通信が必要な)ネットを利用する」状態だったという。

 行政や企業が高速なネット回線で利用するサービスを前提とした仕組みを用意する流れにあって、“激遅”の回線しか使えない伊豆諸島の利島、新島、式根島、神津島、御蔵島、青ヶ島に住む人たちは「時代から取り残されていく」不満と不安を次第に強めていた(伊豆大島、八丈島は04年から、三宅島は11年から光回線が利用可能に)。

 こうした中で、16年に三宅島−御蔵島間と御蔵島−神津島間、17年に神津島−式根島間と式根島−新島間の海底光ケーブル敷設工事が完了。島内でも光回線によるネット接続サービスを開始した。

 新島村(新島と式根島)では18年6月からサービスを提供。携帯電話のサービスエリアについては、auとソフトバンクでLTE通信が利用可能に。NTTドコモは19年7月時点でも3G(FOMA)のままだ。こうして、多くの住民や事業所が熱望していた光回線に移行した矢先に障害が起きた。

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