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「ネットが消えた島」の住民が不安に思っていること伊豆諸島航海日誌(2)(3/3 ページ)

» 2019年08月09日 07時00分 公開
[長浜和也ITmedia]
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切れるべくして切れた。そしてまたきっと切れる

 5月3日には障害が復旧したものの、「また同じことが起きたらどうするのか」という住民の不安は解消されていない。現在まだ途上にある回線の敷設状況と、NTT東が敷設した海底光ケーブルの耐久性を疑問視する声もある。

 先に述べたように、伊豆諸島北部における光回線導入計画では、海底光ケーブルを伊豆大島、三宅島、御蔵島、神津島、式根島、新島、利島、そして伊豆大島と敷設してループを形成する予定になっている。

 都の資料によると、最終段階の伊豆大島−利島間と利島−新島間の敷設は18年度の整備事業だったという。新島村の光回線導入説明会でも同様の説明があったと、今回取材した3人は記憶している。

東京都総務局情報通信企画部が作成した、島しょのインターネット環境改善事業における海底光ファイバーケーブル整備のロードマップ

 しかし、敷設作業は18年度を過ぎても終わらず、現時点でもまだループ状回線は完成していない。進捗について住民への説明は特にないという。小久保さんは「当然、2018年度中に作業が完了すると考え、光回線への移行を決断した。作業が完了しないなら、リスク回避のために移行しなかった」と話している。

 海底光ケーブルの耐久性にも疑問が残る。御蔵島の工事状況を目撃した複数の人が「あの程度の太さのケーブルを大きな玉石(丸みを帯びた岩石)が敷き詰められた海底に埋めたら、台風が来て玉石が動き回るときっと切れる」と証言。それを聞いた住民の多くは不安がっているそうだ。

 NTT東は今回の復旧にあたり、断線したものと同じ仕様の海底光ケーブルを再び敷設すると説明した。新島村議員(小久保さんの家族)が耐久性の不安を問いただしたところ、「世界中でこの方式でやっているから大丈夫と回答された」(小久保さん)という。

 実は、海底ケーブルの断線自体は、もっと前から予見されていた。小久保さんによると、2018年11月ごろにNTT東が「海底ケーブルに傷が見つかった。断線する可能性があるから、ADSL回線を予備で用意しておくように」と文書で説明。NTT東からの正式な発表はないが、島内のうわさでは、今回の通信障害とは違う傷だったそうだ。

 小久保さんはこの提案を受け入れ、予備のADSL回線を発注したが、その工事が完了したのは(偶然にも)通信障害が起きた3日後だった。

 予備のADSLを用意した場合、光回線とADSL回線それぞれで利用料がかかる。そのため事業所の中には、決められた予算からADSL回線を確保する費用を捻出できず、導入を断念したところも多かったと、西胤さんは話す。

 このような背景もあり、今回の通信障害について、島の住民たちはかなり複雑な思いを持っている。そもそも、光回線の導入が日本で一番後回しにされたという怒りもある。

 西胤さんは、新島村商工会として通信障害による損害賠償を求めることは「現段階では考えていない」という。損失の算定が困難だからという理由もあるが、「補償よりも、光回線の状況がどうなっているのか、それを常に明らかにしてもらう方が重要」と訴えていた。

 「いつまた同じことが起こるか分からない。しかし、NTTは同じ場所、同じ方法でケーブルを直そうとしている。それが伊豆諸島の住人にとっては一番の不安だ」(小久保さん)

(つづく)

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