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「メジャーストリーマー移籍」がもたらす衝撃 ゲーム配信者がヒットを生み出す時代(2/2 ページ)

» 2019年08月16日 17時01分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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動画共有から生まれる「ヒーロー」がヒットをリードする

 ポイントは、「なぜここまで、ストリーマーのためのプラットフォームが重要になっているのか」という点だ。

 それはとりもなおさず、ヒットが「ゲームのストリーミング動画」から生まれている、ということだ。

 現在、世界最大のヒットとなっているゲームは、Epic Gamesの「Fortnite」である。NinjaもFortniteの実況プレイで人気を得ている。Fortniteの人気は、完全に動画配信あってのものだ。多数のプレイヤーがプレイ動画をアップし、その面白そうな様子が伝わり、さらにプレイヤーを引き寄せていくという求心力があってはじめて、世界で2億人がプレイするヒットにつながった。

 Ninjaも、過去にはeスポーツの大会に出るトッププロだったが、現在は競技からは引退している。だが、ゲームのプレイを見せて収益を得るという意味では、競技プレイヤー時代以上に大きな収益を得る存在になっている、と言ってもいい。eスポーツというと、トーナメント戦に出るプロプレイヤーが注目されがちだが、こうした「プレイを見せる人々」という形のプロが存在し、収益を生み出している点も忘れてはならない。

 いまや我々は、時間があるとき、いつでも動画を見て時間を潰せる。ゲームに限らず、趣味などについての動画を見る、という行為は日常になった。

 一方で、そうした動画は「どこから知るのか」という切り口が難しい。テレビ放送が、ビジネスとしての古さを感じさせつつも生き残っているのは、「テレビの電源を入れれば何かが映る」という簡単さと、それが情報の窓口として定着しているからに他ならない。SNSや動画共有サイトは新たな窓口になりつつあるが、テレビのチャンネルほど分かりやすくはない。

 結局効率良く人が集まるには、「まずここから」「これは面白い」といった定評のある起点が必要になる。いわゆる「インフルエンサー」が重視されるのはこのためだ。

 いくらコンテンツを作っても、人気になりそうな人を集めても、単純にはインフルエンサーにならない。ヒットするテレビタレントを作る方法論は生まれていても、確実にヒットさせるインフルエンサーを作る方法論は生まれていない。だから、「インフルエンサーを作る」ビジネスはさほど成功していない。テレビのバラエティやドラマとも違う映像との付き合い方が明確に生まれ始めているが、生まれたてのメディアであるがゆえに、作るのは難しい。

 結果的にストリーミング配信の世界では、頭ひとつ抜け出したインフルエンサーをうまく見つけ、その影響力を大きくしていく手法が一般的だ。

 トップストリーマーが注目されるのは、インフルエンサーを巡る仕組みと無縁ではない。いままでのメディアの方法論と違う世界がヒットの源泉になっている時代、ヒットに絡む・ヒットに爪をかける場所として、トップストリーマーが重要視されているのだ。

 そのトレンドをいち早く掴み、ゲームを売っていくには、多くのストリーマーと視聴者を抱える「動画配信プラットフォーム」を持つことが重要になる。

 現在、ゲームの販売は急速にオンライン化しており、オフラインの市場は、コンシューマゲームの一部にしか残っていない。それらは未だ大きいが、市場のトレンドを作る存在というより、「ヒットをさらに大きなものにする」役割の方が強い。だからこそ、特にゲームにおいては、ストリーミング配信が力を持っている。視聴から購買への移行がスムーズだからだ。

 現在はまだ、ゲームは「ダウンロード」して買うものだ。だがここから数年をかけて、市場はゆっくりとストリーミングゲームに移行していく可能性が高い。そうすると、動画視聴者を衝動的にプレイヤーに持ち上げるのも容易になる。

 MixerをMicrosoftが強化するのは、その時代に向けての仕込みなのだろう。GoogleはすでにYouTubeという圧倒的なプラットフォームを持っている。

 ソニーや任天堂はどうするのだろうか。いまさら自社でやるのは不可能に近いので、おそらくはパートナーシップ、ということになるのではないか。そうすると、残るTwitchの存在感は今後も大きなものになりそうだ。

 閑話休題。

 とにかく、マスメディアとは違う動画から消費につなげる流れは、まずゲームではっきりと大きなビジネスになった。それがゲームで終わるか、それとも、より一般的な、物理的商品に広がるのか。物流が絡むのでなかなか難しいところがあり、ゲームほど大きな流れになるかはわからないが、拡大していくことだけは間違いない。

 そうした流れの頂点にいる人間がNinjaであり、その移籍が今回の騒動だ。日本でも、HIKAKINのような人気YouTuberはいて、マスメディアでも活躍するようになっている。だが、もっと細分化され、「あるジャンルのインフルエンサー」といえる人々が多数生まれ始めていて、アメリカなどではその市場性も大きくなっている。

 すき間時間に動画を消費する若い層は、そうした「一般にはメジャーではない」と思われる人々がヒーローなのだ。そうした「メジャーな人々の多層化」とマーティングの関係は難しい。しかし、過去とは違い、そうした部分をデータから読み解きつつ進めていかないと、効率的なマーケティングが行えない時代になるのではないだろうか。

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