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「このまま消えてしまうのでは」──VTuberの先駆け「キズナアイ」に起きた「分裂騒動」 “1号”の投稿動画減少、ファンの不安に本人や運営元が説明「キズナアイたらしめるもの」とは何か(2/2 ページ)

» 2019年08月19日 23時15分 公開
[井上輝一ITmedia]
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1号「頻度が減ったのはサマソニ準備のため」

 「【LIVE】サマソニ開幕!緊急LIVE配信!」と題したライブ配信動画で、1号さんは「この1カ月、動画投稿頻度が減っていた。皆が心配していることがこの数日で分かった。(自身が出演する、8月18日開催の『SUMMER SONIC 2019』3日目に向け)気合いを入れて練習しようと7月20日に考え、『精神と時の部屋』にこもった結果、出てきたのが8月14日だった」と、動画投稿頻度が落ちたのはサマーソニックへの準備が理由だったとしている。

 「(キズナアイとして動画投稿をしている)他の2人も私の状況を把握していなかった。私が帰ってこない状況を見て、一生懸命考えてくれて、動画投稿の穴を空けたくない、ファンに心配を掛けたくないという思いで動画投稿をしてくれていた」と説明する。

 あらためて、「私(1号)が消えてしまうということはない」と自身の引退などについて否定した。

ディズニーとの比較で見える「キズナアイたらしめるもの」

 キズナアイを取り巻く一連の騒動は、Activ8が動画を通して問いかけた「キズナアイたらしめるものは何か」に終始するのではないか。

 今回の「分裂」と似た取り組みに、ディズニーパークのアトラクション「タートル・トーク」がある。ウミガメの「クラッシュ」がスクリーン上で動き回りながら、観客を指名してリアルタイムにコミュニケーションするというアトラクションだ。日本では、東京ディズニーシーに2009年に設置された。

「タートル・トーク」の公式PV 関連動画にユーザー撮影による実際の様子が上がっている(同アトラクションは撮影可)

 クラッシュが登場する映画「ファインディング・ドリー」では、クラッシュの吹き替えを声優の小山力也さんが演じているが、タートル・トークでのクラッシュの声も小山さんと比べてほとんど違和感がない。

 タートル・トークでのクラッシュの中の人について、オリエンタルランドは明らかにしていない。しかしディズニーシーの営業日にはタートル・トークも一日中開いていることから、何人かの演者がボイスチェンジャーなどを用い、代わる代わるクラッシュを演じているとみられている。

 演者の演技に合わせて映像上の体が動き、客とリアルタイムにコミュニケーションできるという観点では、タートル・トークがVTuberの先駆けともいえるだろう。

 つまりディズニーは、「クラッシュの肉体(映像)」「クラッシュの声」「クラッシュとしての演技」「演者の秘匿」でクラッシュをクラッシュたらしめていると考えられる。

 キズナアイはどうだろうか。

 肉体に関しては、4号の服装が異なることを除けば全て同じだ。

 声に関しては、1号に他が似せている面もあるものの、聞けば違いに気付くレベル。

 クラッシュとキズナアイで大きく違うのは、「演技」と「演者の秘匿」ではないだろうか。1号さんはこれまでの動画で、中の人の「素」(か、それに近い演技)をかなり出してきたように見える。それが視聴者に親しみを感じさせ、ファンを獲得してきた経緯もある。

 また、Activ8としては情報を公開していないが、ファンは1号の中の人を特定している。4号の中の人も特定されており、キズナアイとしてではない同氏の言動の一部に対し、反感を覚えるファンもいるようだ。

 中の人自身の個性がキズナアイのアイデンティティーと密接に絡む中、中の人が増えるというのはファンにとって受け止めにくいのも想像に難くない。

 Activ8は声明の中で「分人」を強調していたが、同じ相手(ファン)に異なる個で接することが、「分人」の概念として適切なのか記者には疑問だ。

 「キズナアイの分裂」というActiv8の取り組みは、キズナアイの運用を広げていく上で必要不可欠だったのかもしれない。しかし取り組みの反響を見る限り、「キズナアイたらしめるもの」が何であるか、もう一度考えてみるべきではないだろうか。

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