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光を反射しない「究極の暗黒シート」、産総研が開発 可視光を99.5%吸収、ゴム製で量産可能

» 2019年08月23日 16時52分 公開
[井上輝一ITmedia]

 黒は光を吸収する色だが、それでも黒い物体に光を当てれば、ある程度の光を反射する。しかし、ほとんど光を反射せず、ほぼ全て吸収してしまう「究極の暗黒シート」を産業技術総合研究所(産総研)が開発したという。シートの素材はゴムで、量産性にも優れるとしている。どんな仕組みなのか。

産総研の「暗黒シート」(解説動画より)

ヒケツは表面のギザギザ構造

一般的なゴムシートに対し、暗黒シートはギザギザな表面になっていることが分かる

 “暗黒”のヒケツはシートの表面構造にある。通常のゴムシートの表面は平らになっているが、暗黒シートの表面は高さ数十マイクロメートル程度の細かい円すい状の「ギザギザ」が覆っている。ギザギザ構造へ光が入射すると、一部の光はゴムに吸収され、残りの光はギザギザの奥へ反射していく。反射した光はさらにギザギザに当たり、吸収され……と、反射と吸収を繰り返すため、最終的に光のほとんどがゴムに吸収されてしまうという仕組みだ。

ギザギザに光が入射すると、吸収と反射を繰り返しながら光が奥へ進むため、光が外にほぼ出てこなくなる

 この仕組みで、紫外線〜可視光域の光は約99.5%吸収できたという。さらに、赤外線の中でも波長が長い「熱赤外線」では約99.9%の吸収率を実現したとしている。

鋳型からゴムに転写 量産性良し

 ギザギザ構造は、粒子加速器(サイクロトロン)から発射したイオンビームを樹脂基板へ当てることで実現している。イオンが基板に衝突すると、基板に微小な円すい状の「クレーター」ができる。

 樹脂基板を「鋳型」とし、その上にゴムを置くことで、ゴム表面へ構造を転写する。すると、ゴム表面には多数の円すいが立つ構造ができあがる。暗黒シートは鋳型の樹脂基板から何度も複製できるため、量産性にも優れるという。

暗黒シートの作り方。イオンビームを当ててギザギザにした樹脂基板を鋳型にする

 このように高い光吸収率を持つ「暗黒素材」としては、英サレー・ナノシステムズの「ベンタブラック」がある。ベンタブラックは「世界一黒い物質」として知られ、可視光の99.9%以上を吸収できるという。

 暗黒シートを開発した、産総研の雨宮邦招研究グループ長は、「(ベンタブラックは)触ると崩れたり剥がれたりしてしまうため、普通の環境での利用は難しい」と指摘。

 「暗黒シートは、ゴム製のため耐久性に優れ、柔軟性もある」(同)と、ベンタブラックにはないメリットを説明する。

暗黒シートはゴム製のため、耐久性や柔軟性がある

 暗黒シートの活用先として、雨宮さんは「美しい黒が映える装飾としての活用や、映像のコントラスト向上の他、光学機器での乱反射防止といった応用が期待できる」としている。

鋳型サイズなどに課題

 研究成果を今年4月に発表したところ、「すでに少なくない問い合わせを頂いている」という。一方、粒子加速器の装置の制限から鋳型のサイズは最大でも10センチ四方となる他、表面に付着した油分の汚れを十分に清掃できるかなど、実用上の課題も残っているという。

 可視光域の吸収率改善や、鋳型サイズの問題解決など、実用化に向けてさらに研究を進めていく考えだ。

産総研の雨宮邦招研究グループ長による解説動画

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