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AIが声からウソを見抜く 劇的に進化する音声認識が変える世界よくわかる人工知能の基礎知識(5/5 ページ)

» 2019年09月09日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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 コールセンターのような場所で、声の分析が行われている理由は他にもある。それは声に隠されたもう一つの情報である感情を把握するためだ。

 けんかしている友人や配偶者から「怒ってないよ」と言われて、そのままうのみにする人はいないだろう。例えば語尾にどのくらい力が込められているかで「怒ってない」の本気度を探るはずだ。それと同様に、コールセンターにかかってきた電話の音声データから、顧客の感情や精神状態を把握するシステムが既に登場している。

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 MIT発のスタートアップ企業であるCogitoは、こうした音声による顧客の感情分析をリアルタイムで実行し、オペレーターにフィードバックを促すシステムを開発。このシステムではオペレーター側の対応も分析し、会話の質を数値化し、コールセンターを管理するスーパーバイザー向けに一覧で表示する機能まで実現している。

 またAIによる感情分析の研究を進めているイスラエルのNemesyscoは、特定の質問に対する話者の反応を分析し、その人物がうそをついているかどうかを把握する技術を提供。音声データを活用した、AI版うそ発見器のようなものだ。

 コールセンターはこの技術を活用し、電話を通じた不正行為を回避できる。話者が誰かに脅されてうそをついている場合に、声に含まれる不安の感情からそれを把握するといった研究も行われているそうだ。

 こうした音声による感情分析は、コールセンター以外の場所での応用も期待されている。最近、高級車を中心に前述の音声インタフェースが搭載され、さまざまな操作を音声で行えるようになってきた。それを利用して、ドライバーの声が眠そうだったり、あるいは怒気をはらんでいたりした場合に、正常な運転ができない状態にあるとして注意を促すといった具合だ。

 AIスピーカーが家庭内だけでなく、オフィスやさまざまな施設に導入されれば、同様の感情分析がより多くの場所で行われるようになると考えられる。

 人類がいつ言語を取得したのか、学者の間でも合意は得られていないが、5万年ほど前には人類が高度な道具をつくるようになっており、これをもって言語が存在していたと考える説がある(道具をつくるのに高度なコミュニケーションが必要なため)。人間が5万年かけて発展させてきた音声によるコミュニケーションを、AIがどのくらいの期間で完全にマスターするかは分からない。いずれにしても、音声という豊かなコミュニケーションをAIが獲得することで、より多様な価値が創造されることになるだろう。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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