避難訓練では、非常食の配布訓練なども行われるので、てっきり夕食は非常食などが出るのかと思ったら、何も出なかった。レベル4の避難勧告で避難してきた場合、形式的には「自主避難」となる。市町村も公式に避難所開設通知を出していないため、非常食は届かないということのようだ。
ただ、学校の防災倉庫には数百食分のレトルトカレーとレンジで温めるごはんが備蓄されているはずである。筆者は毎年の避難訓練時に、それらの在庫を確認している。しかし派遣されている市の職員が訓練時にいつも来ている人と違っており、防災倉庫に何があるのか、全く把握していないようだった。
そもそも、避難途中にコンビニによっておにぎりを買ってくるというのは非現実的だ。すぐに食べられる食品を家庭で用意できるのも限度がある。カップ麺にしても、お湯がなければ食べられない。避難所にポットぐらいあるだろう、と思われるかもしれないが、それがどこにあるのか、どこで食べていいのか、そうした情報も判然としなかった。こうしたことは、あらかじめ段取りとして決められているわけではなく、誰かスタッフを捕まえて問い合わせた時に、初めて案件として対応が始まる、ということなのだろう。
さいたま市付近に台風が最接近したのは、午後9時半頃だったろう。一時的に風雨が収まってきたことから、かなり中心部に近いところだったように思われる。
避難所は午後9時に消灯となり、寝る人は寝る、起きてる人は別室へ移動することになった。われわれは消灯されている部屋にいたのだが、午後11時を過ぎたあたりからさいたま市内各地の洪水警報が頻発した。避難してきた多くの人はYahoo災害アプリをインストールしているらしく、時間差でかなり大きな音で警告音が鳴る。大騒ぎだ。
あのアプリは、デフォルトではナイトモードになっていても、あるいは消音設定にしていても、緊急警報だけは最大音量で鳴るようにできている。設定を変更すれば鳴らないようにも設定できるのだが、大事な警報を見逃すのも困る。もう眠りたい人もいただろうが、度々警報で起こされるのでは、おちおち寝てもいられなかっただろう。
夜中0時を過ぎた頃、道路にあふれていた水も引いて雨も収まったため、意を決して自宅へ戻ることにした。自宅が床上浸水していたら、早めに手を打つ必要がある。
幸い床上浸水はまぬかれたが、床下が浸水したのかは確認できなかった。途中、コンビニが営業していたのでサンドイッチなどを買い込み、遅い夕食を取った。
疲れた体を横たえてようやく眠りに就いた午前2時半頃、再び緊急警報でたたき起こされる。今度は荒川が氾濫の危険ありということで警報が出たのだ。だが自宅から荒川までは、8キロぐらいある。途中に小さい河川もいくつかあり、そこには堤防もあるわけで、それを乗り越えてここまで水が到達するとは考えにくい。
警報は広く通知するに越したことはないのだが、夜中の2時半や3時過ぎにあまり関係ない地域にまで警報を通知されると、寝ぼけた頭でもう一度避難すべきかどうか判断しなければならず、正直しんどい。
明け方には、警報解除の報もまた同じくけたたましい警報音でたたき起こされた。解除の案内を心待ちにしている人もいるだろうが、同じ音で通知される必要があるだろうか。こうしたアプリによる警報通知の在り方も、再考すべき部分があるようだ。
この地域の多くの人は避難所に避難せず、自宅避難を選択したようである。この地域は持ち家の一軒家がほとんどで、自分の安全もさることながら、家屋の安全も重要だと考えるからだろう。うちは築20年になる借家なので、この家と心中する気はさらさらない。
夜が明けてから、ニュースでは自宅に取り残されて孤立し、救助されている人の映像が数多く見受けられたが、実際に警告を受けて避難した経験からすれば、ああいう人たちの中には、単に警告を無視して自宅に残り続けて人たちも含まれているはずだ。ヒドい目にあって気の毒には思うが、同情はできない。ネットがなくても、テレビや地域の防災放送で、しつこいくらいに避難勧告は受けていたはずである。なにも聞いていないとは思えない。結局逃げ遅れて、国や地方自治体が多大なコストをかけて救助を行うわけである。
逃げ遅れてしまった特別な事情があるのなら別だ。しかし単に自分たちは大丈夫だろうという根拠のない「カン」で逃げ遅れ、消防や自衛隊に救助されるハメになるというのは、一番ダメなパターンだ。
今回筆者ら家族は特に被災しなかったので、自宅に居ても結果は同じだった。だが避難したことが無駄だったとは思わない。まだ安全に移動できるうちに自力で避難するという判断をしたことで、仮に被災してしまった場合の社会コストを下げたわけである。
みなさんにも、避難勧告が出たら速やかに自力避難することをお勧めしたい。何もなかったのなら、それはそれでラッキーではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR