「ワイヤレス給電には『ガラスの天井』(Glass Ceiling)がある」——ワイヤレス電力伝送実用化コンソーシアム(WiPoT)の篠原真毅代表(京都大学教授)は、CEATEC2019の講演で空間伝送型ワイヤレス給電技術の現状を語った。有能な人材が人種や性別の違いでキャリア形成を妨げられるように(=ガラスの天井)、有望な新技術が表舞台に立てていないという。
ワイヤレス給電技術には「Qi」(チー)に代表される「近接結合型」の他に、電流を電磁波に変換してアンテナで送受信する電波受信方式など「空間伝送型」がある。日本では1980年代からマイクロ波を使った電波受信方式の研究が行われていたが、標準化や法制化の遅れで実用化に至っていない。
米国では今年6月、米Ossia(オシア)が開発した「Cota」というワイヤレス電力伝送技術がFCC(米国連邦通信委員会)の認証を得た。Cotaは、室内に2.4GHz帯のトランスミッターを設置し、0.9〜1.8メートル離れた場所にあるスマートフォンなどのデバイスに最大1ワットを給電する技術。その部屋にいる間はスマホを完全にワイヤレスで使い続けられる。
オシアは来年にもライセンスビジネスを展開する見通しで、より大きな電力を伝送できる5.8GHz帯用トランスミッターも開発中。いずれは複数の機器に同時に給電するとしている。
日本でも今年1月に総務省の諮問機関である情報通信審議会にワイヤレス電力伝送のワーキンググループを設置するなど、標準化や法制度の整備を進めようと動き出した。
まず920MHz帯、2.45GHz帯、5.7GHz帯で10メートルまでの距離でワイヤレス給電する技術を2020年までに確立し、工場のIoT化や介護施設のセンシングといった分野で実用化する考え。「ワイヤレス給電により、電池切れの不安なく、センサーや機器が24時間動く。施設全体で見守りや業務改善が期待できる」(篠原氏)
18年にパナソニックと京都大学が共同で実施した実証実験では、オフィス内でウェアラブルセンサーに向けて5ワットのワイヤレス給電を行い、内蔵バッテリーだけでは3カ月未満だったセンサーの駆動期間を7カ月以上に延ばすことに成功した。今秋には老人介護施設でより実践的な実験を行う計画だ。
情報通信審議会の発表後、WiPoTには会員企業が増えるなどの追い風も吹いたが、篠原氏は改めて「ガラスの天井」の存在を指摘する。その要因は、(1)有線伝送という手軽な代替技術の存在、(2)実用的な効率化を実現できていないこと、(3)人体への安全性や既存の通信/放送システムへ影響を懸念する声など。
「人体への安全性や既存通信/放送システムへの影響を検証するのは当然だ。しかし『わざわざ送電を無線化しなくても線をつなげば十分』という意見は必ず出てくる上、効率だけなら有線送電にワイヤレス伝送は絶対にかなわない。これらの指摘を論破するには技術プラスαが必要だ」(篠原氏)
総務省がまとめた報告書は、2030年までに家電などのバッテリーレス化が進み、2040年にはあらゆる場所にワイヤレス給電設備が整備されるという未来図を描いた。家庭からコンセントやケーブルが姿を消し、家電を使うときに電源を意識する必要はなくなる。篠原氏は、そうしたビジョンを共有することが重要と考えているようだ。
「子ども達が『電気って何?』と言うようなワイヤレス電力社会を作りたい。それも日本発で」(篠原氏)。
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