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ネット時代にJASRACの「ビジネスモデル」はどうあるべきか(2/4 ページ)

» 2019年10月28日 13時50分 公開
[栗原潔ITmedia]

 第一に、JASRACの独占による弊害が指摘されることが多い。JASRACが提示する条件に対して交渉の余地がなく、利用者はそれに従わざるを得なくなっているという指摘だ。しかし、2001年より施行されている著作権等管理事業法により著作権の仲介業務は登録制となっている。つまり、希望さえすれば誰でもJASRACのような業務を行うことができるのである。実際、現時点ではNexToneという事業者がJASRACと競合している。

 ここで、著作権管理の世界の競争は一般的な消費財ビジネスにおける競争とは性質が異なる点に注意が必要だ。例えば、Aチェーンの牛丼は高いのでBチェーンの牛丼あるいはCチェーンのハンバーガーに客が流れる(結果、Aチェーンは値下げするか何らかの付加価値を加えるなどの企業努力を求められる)という競争によって消費者が利益を得るという構造は音楽の世界では成立しにくい。利用者は特定の楽曲を使いたいから使うのであり、他の楽曲で代替することはできないことが通常だからだ。

 さらに、著作権管理事業者の「顧客」には、ライブハウスなどの音楽利用者だけではなく、作詞家・作曲家などのクリエイターも含まれる点にも注意が必要だ。仮に、ある著作権管理事業者が著作権利用料を大幅値下げすれば利用者は大喜びであろうが、分配を受けるクリエイター側はより多額のマネタイズの機会を求めて自作品を別の著作権管理事業者に移してしまうだろう。

 つまり、著作権管理事業者の競争は値下げ合戦ではなく、利用者そしてクリエイターに対する契約形態の柔軟性などの価値提供の点で行われていくことになるだろう。実際、NexToneは、利用形態の柔軟性などの点でJASRACとの差別化を出そうとしている。最近では、NexToneへの委託者であるゴールデンボンバーの鬼龍院翔氏が自身の作品のSNS上での非営利利用を自由に行えるようにしたとの発表を行っている。また、NexTone管理の一部の楽曲ではYouTube等で原盤権(CD音源を利用する権利)も許諾もサポートしており、利用者の利便性を向上すると共に原盤権者への収益機会ももたらしている。

photo 鬼龍院翔公式サイト

 米国でもASCAP、BMI、そして、SESACという主要仲介業者が競合している。仲介業者が乱立することは問題だが、少数の業者による競争原理が働くことは好ましい状況だろう。今後、JASRACとNexTone間での健全な競争が今まで以上に行われていくことを期待したい。

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