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ネット時代にJASRACの「ビジネスモデル」はどうあるべきか(3/4 ページ)

» 2019年10月28日 13時50分 公開
[栗原潔ITmedia]

JASRACの独占である演奏権

 この競争原理という観点で重要な問題の1つとして、著作権の支分権のうち演奏権(ライブハウスや飲食店での生演奏、BGM、カラオケ店等)だけはNexToneが扱っておらずJASRACの独占となっていることがある。そして、ライブハウスにおける分配の透明性、飲食店におけるBGM、音楽教室における使用料徴収等、昨今、JASRACの問題点として話題となるのは、ほとんどこの演奏権が関係した領域である。

 支分権の中でも、演奏権以外のCD販売、放送、楽譜出版、ネット配信等に関する権利は企業組織内の専門のスタッフが管理しており、ITによる効率化も比較的容易である。しかし、演奏権の管理は、全国津々浦々のライブハウスや飲食店を訪問し、契約を締結し、利用料を徴収するという泥臭い作業が必要になる。現時点でこれができるのは歴史があり地方に多くの支部と要員を擁しているJASRACだけというのが実情だ。NexToneは演奏権管理については実現を目指して検討中という段階のようだ。

 ライブハウスにおける支払いの透明性の問題について見ていこう。徴収した著作権使用料をクリエイターにどう透明かつ公平に分配するかは重要な課題である。現在では、放送、CD販売、出版、音楽配信、通信カラオケなど、ほとんどの利用形態において楽曲の利用頻度に応じて定量的に分配額が決定される公平な仕組みが実現されている。

 そのほぼ唯一の例外が演奏権、特にライブハウスにおける生演奏である。ライブハウスや飲食店の経営者が演奏(再生)される楽曲を逐一JASRACに報告するのは事務作業の負担が大きいことから、ほとんどの場合、分配額はサンプリング方式により決定されている。サンプリングは特定の店舗における特定の時期の利用曲の調査により行われるようだが、JASRACはその詳細を明らかにしていない(詳細に公表すれば恣意的な操作が可能になってしまうのでサンプリングの意味がなくなってしまうというJASRACの主張は一理あるが)。

 結果的に、演奏される機会が少ない楽曲はサンプリング調査から漏れてしまい、分配の対象外となる可能性が高い。作詞家・作曲家が自身の作品をライブハウスで演奏する時もJASRACへの支払いは必要だが、その楽曲が他人にカバーされる機会が少ないタイプのものであれば、支払った分がまったく還元されないという状況が生じ得る。

 この問題を解決するためには、ライブハウスにおいても演奏した楽曲を全て報告することが必要だ。これは、過去においては事務作業負荷的に困難だったが、現在であればITの適切な活用により十分に実現可能である。実際、JASRACも2019年12月または2020年3月までには、ライブハウスでの演奏をサンプリング方式からセンサス方式(料金は包括制だが分配は実際の利用件数に合わせる方式)へ転換する意向を表明している。これは極めて好ましいことだ。

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