ITmedia NEWS > セキュリティ >
セキュリティ・ホットトピックス

イープラスに聞く、悪徳転売業者を駆逐するまで チケット購入アクセスの「9割占めた」botを徹底排除迷惑bot事件簿(特別編)(4/4 ページ)

» 2019年11月01日 07時00分 公開
[中西一博ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

小西 その後も捜査機関から高額転売の調査依頼が入っています。実は、忙しい業務の合間を縫って、警察の要求内容に応じて、特定のアカウントの行動記録を数年分そろえるのは結構負担が掛かります。この点で「買い占めに遭っているのはうちだけではないはずなのに、なぜ最先端の転売対策をとっているイープラスばかりに協力を要請するんですか」と思わず不満をぶつけたら「まだ対策が弱いところでは、不正行為を立件できるだけのデータが取れていません。記録がとれているイープラスさんだからお願いしているんです」と返されまして、「そういうことなら協力させていただきましょう」と。「捜査機関にも認められた!」という気持ちになりました。

中西 一本取られましたね(笑)。可視化した記録が正確にとれることが、やはり今後の不正防止と犯罪捜査にも一役買いそうです。これは、チケット転売だけでなく、最近頻発している不正ログイン事件の捜査でも同じことがいえそうですね。技術的には立件の基になる「悪意」の記録がしっかり残せる時代になっているので、個人でも、出来心でbotを買って不正行為に手を染めることがないよう、十分注意してもらいたいですね。

SMS認証だけではダメ? 組織的な犯行に対抗するには

中西 BMPによるbot対策後は、イープラスの利用者の評価はどうですか? Twitter上では「イープラスの一般先着は取りあえず、つながるようになった」とか「今年は、イープラスで某球団のプレミアチケットが取れた」「アニメイベントのチケット争奪戦に勝利」などのツイートもよく見かけるようになりましたが。

小西 2月の某球団の1年分のチケット販売は、イープラスの取り扱いチケットの中でも激戦になりやすく、例年はbotによるアクセス集中で2時間ほどサイトが重い状態が続いていたのですが、今年はBMPでの制御が効いて、比較的つながり易かったようです。また、先ほどお話しした整理番号の買占め行為は完全に駆逐できていますので、その分、本当に行きたい方々へチケットが届くよう、公平性は高められていると思います。

中西 チケット販売サイト利用者の立場からいうと、各種の先行販売で抽選が外れても、最後に一般販売で正規にチケットを買える可能性が残っているのがうれしいです。世間には先着販売不要論もありますが、私は「一般先着でワンチャン残しておいて欲しい」派です(笑)。ところで、今回のbot対策の抽選販売への効果はあるのでしょうか。

小西 定量的なデータはないのですが、ある程度効果は出ているようです。先着販売で使われる不正botのアカウントが、抽選販売でも用いられるケースがあります。BMPでbot利用アカウントを絞り込み、他の違反行為なども確認のうえアカウントのBAN(利用停止)を実施しているので、結果として正規のユーザーにチケットが届きやすくなっている可能性はあります。ただ、基本的には抽選販売は、社内でもその道のエキスパートが独自のノウハウを駆使して不正を見つけています。

中西 イープラスは2017年からSMSによる多段階認証を導入していて、簡単には複数アカウントを作れない仕組みを導入していましたが、その効果はどうでしたか?

小西 素人の不正行為には抑止効果が期待できるのですが、悪質な高額転売業者は、SMS認証用に数百のSIMカードを用意して、大量のダミーアカウントを取得しているようでした。

中西 中国では、大量のSIMを用意してSMS認証を潜り抜けて荒稼ぎをする「羊毛党」や「黄牛党」と総称される連中が暗躍しています。彼らは大量に入手したSIMを利用して、ダミーアカウントを乱造し、複数の企業の新規入会(会員登録)ポイントを根こそぎ搾取したり(=羊毛党)、会員優待キャンペーンを利用して商品を購入し、自動転売して利ザヤを稼いだり(=黄牛党)しています。

 そのアジトには、数千台の中古スマートフォンや、「猫池」と呼ばれるSIMカードを刺せるモデムプールが並んでいて、装置外部からスクリプトでそれらを自動運転し、不正なユーザー登録や、不正ログインアクセスを繰り返しています。ある中国企業は250億円投じた入会キャンペーンのうち150億円分のポイントを羊毛党に搾取されたともいわれています。

小西 モデムプールの装置自体は、日本からも購入できるようです(※)。最近はeSIMに対応したものもあります。

※法規上日本では、通信端末は電気通信回線に接続する前に技術基準適合認定を受ける必要がある。

中西 悪用する側でも常に新しい技術を取り入れている可能性を考えて、守る側でも対策を打っていく必要がありますね。多段階認証や最新のbot検知技術だけでなく、他の先端技術も取り入れて、多層防御で犯罪的行為や不正に立ち向かう必要がありそうです。

小西 当社でも、「チケット流通の本来あるべき姿」を目指して、電子チケットの普及推進や、「EMTGチケットトレード」を利用した公式の2次流通サービスをリリースし、不正行為の防止と利用者の利便性向上の両立を図っています。ところで中西さん、当社のサイトで最近チケット取れてますか?

中西 3月に、対バンライブだったのですが、あるアーティストのライブの一般先着チケットをゲットして参戦しました。100人規模のライブハウスでの公演でしたが、行ってみたら予約分の整理番号で最後の1、2枚だったみたいで、滑り込みセーフでした(笑) 席は後方でしたが、こういうときは観られるだけでうれしいんですよ。

 どのアーティストや公演でも、このような新規顧客開拓の機会は重要だと思うんです。中には、新しくファンになった学生がお小遣いでチケットを入手できるよう、大規模ライブにおいてもチケットの価格をギリギリまで下げる交渉を自ら行っているアーティストもいます。そういうアーティスト側の“想い”を反映させる意味でも、一見(いちげん)さんが、“頑張れば” 適正価格でチケットを入手できる最後の砦として、一般先着販売は維持してほしいシステムだと思っています。

 これからもご苦労は絶えないと思うのですが、本当に希望する人にチケットが届くよう、さまざまなチャレンジに期待をしています。今だからいえますけど、BMPの導入も、チャレンジ要素たっぷりでしたからね(笑)

 本日は今までに語られていなかった貴重な話まで聞かせて頂き、有難うございました。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.