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マネーフォワード、「ボクシル」運営元を約20億円で買収 SaaSマーケティングに参入

» 2019年11月11日 21時21分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 マネーフォワードは11月11日、SaaS情報の比較・検索サイト「BOXIL」(ボクシル)を運営するスマートキャンプを子会社化すると発表した。19億9800万円を投じ、既存株主から72.3%の株式(議決権ベース)を取得する。取引実行日は11月末の予定。国内SaaS市場の急成長を踏まえ、SaaSマーケティング事業に参入して収益基盤を強化する狙い。

photo スマートキャンプの古橋智史社長(=左)、マネーフォワードの辻庸介社長(=右)

 スマートキャンプが持つノウハウを生かし、自社のクラウド型会計ソフト「マネーフォワード クラウド」のユーザーを拡大する狙いもある。スマートキャンプには、オフラインの展示会を活用したマーケティング支援などを実施し、相互での成長を目指す。

 マネーフォワードは近年、M&A(企業の買収・合併)による業態多様化に注力している。今回の取引は2017年の東証マザーズ上場以来4社目のM&Aとなる。

ボクシルを使った“見込み客”ビジネスを展開

 スマートキャンプは14年創業。主力サービスのボクシルは、ITベンダーから情報提供を受け、SaaSの製品情報を1000件以上掲載している。ユーザーは、製品情報を確認・比較したり、使用経験のある製品のレビューを掲載したり、他のユーザーのレビューを閲覧したり――といったことが可能。興味のあるサービスを見つけた場合は資料を請求できる。

 資料を請求した“見込み客”の情報をITベンダーに提供し、請求の件数に応じて料金を得るのがスマートキャンプのビジネスモデルだ。この他、見込み客に電話やメールで営業するインサイドセールスを支援するサービス「BALES」(ベイルズ)、SaaS型顧客管理システム「Biscuit」(ビスケット)なども提供している。

photo ボクシルを使った“見込み客”ビジネスの仕組み

 マネーフォワードは、こうした事業内容の独自性や競合優位性に着目し、子会社化を決断したという。同社の辻庸介社長は「ボクシルのマーケティングやSEO対策、新規顧客獲得のノウハウをクラウド事業に生かし、これまでリーチできなかった層と接点を持ちたいと考えた」と理由を説明する。

SaaSレコメンドエンジンの開発も予定

 マネーフォワードは今後、マネーフォワード クラウドのユーザーにスマートキャンプのサービス利用を促す他、得意分野であるオフラインの展示会を活用したマーケティングを積極的に行い、ボクシルなどのユーザーをさらに増やす考えだ。

 マネーフォワード クラウドの提供を通じて得た、ユーザー企業の仕訳の明細や財務情報、事業規模などのデータと、ボクシルに蓄積されたレビューや資料請求件数などのデータを照合し、顧客企業に最適なSaaSツールを提案するレコメンドエンジンの開発も予定している。

photo レコメンドエンジンの開発も予定する

ボクシルは中立的な編集方針を維持

 スマートキャンプの経営陣は今後、マネーフォワードの経営にも協力する予定だが、スマートキャンプは独立した経営を維持する。ボクシルでも中立的な編集方針を維持する方針で、スマートキャンプの古橋智史社長は「マネーフォワードの競合製品の情報もしっかりと掲載し、必要があれば顧客企業にレコメンドする。独立した企業として、恣意的な操作は行わない」と強調した。

21年11月期にEBITDAで黒字化へ

 マネーフォワードの18年11月期の通期連結業績は、売上高が45億9400万円、営業損益が7億9600万円の赤字、最終損益が8億1500万円の赤字。スマートキャンプの19年3月期の通期連結業績は、売上高が5億9700万円、営業損益が1億300万円の赤字、最終損益が1億900万円の赤字。両社ともに投資フェーズにあるとはいえ、赤字が続いている状況だ。

 黒字化する時期のめどについて、マネーフォワードの辻社長は「回収期間をコントロールしながら規律ある投資を行う。21年11月期にEBITDA(営業利益+減価償却費+のれん償却額)で黒字を実現する。その後は早期の東証1部上場を目指す。今回の買収は、黒字化にも寄与するだろう」と語った。

photo マネーフォワードの今後の方針

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