米Googleが10月23日(現地時間)に発表した、「量子超越性の実証」。既存のスパコンでは計算に約1万年かかるような、ある特殊な問題を、Googleの量子コンピュータでは3分20秒で解けることを示したといいます。
一方で、量子コンピュータの製造でGoogleと競争する米IBMは「その問題はスパコンでも約2.5日で解ける」と反論するなど、今回の発表が量子超越性を本当に実証できているのかどうかは議論もあります。
ところで、Googleは4年前にも同じような発表をしていました。2015年8月に米航空宇宙局(NASA)と共に発表した、「量子コンピュータがシングルコアコンピュータより1億倍高速に計算できた」というニュースです。
4年前の発表と今回の発表は何が違うのでしょうか? 東北大学で量子コンピュータの研究や産業応用を進めている、大関真之准教授に取材しました。大関准教授は、「簡単に言えば、既存のコンピュータでもがんばればできてしまうのが前回で、どうがんばってもできない例で比較したのが今回の話ですね」といいます。
前提として、今回と4年前ではマシンの動作原理が異なります。今回のマシンは「量子ゲート方式」と呼ばれる量子コンピュータで、4年前のマシンは「量子アニーリング方式」と呼ばれるものでした。
量子ゲート方式は、既存のコンピュータが演算に用いる「論理ゲート」に量子特有の効果を持ち込んだもの。素因数分解など一部の問題を、量子効果を用いて高速に解けることが理論的に示されています。
量子アニーリング方式は、磁石を構成する原子の並びの挙動を量子でシミュレートするもの。膨大な組み合わせの中から最も適したものを選び取りたい「組合せ最適化問題」を、うまく「原子の並び」に当てはめると、各原子を表す「量子ビット」が最適化された答えを自然と導きます。
方式が異なると、解ける問題も変わります。量子ゲート方式は、各量子ビットに対するゲート操作の選び方で、いくつかの種類の問題を既存のコンピュータより少ない計算量で解けます。一方、量子アニーリング方式はあくまで物理現象のシミュレーションであるため、解ける問題は組合せ最適化問題など、物理現象に当てはめることのできる問題に限られます。
大関准教授は、Googleが発表した量子超越性について、「専門的な言葉を省いて言うなら、既存の世界最強のスパコンでも手際よく処理できない特殊な課題を、量子コンピュータでは3分で解けたということ。このような圧倒的な差を示す量子コンピュータの優位性を示す言葉が量子超越性です」といいます。
一方で、4年前の「シングルコアコンピュータより1億倍速い」というニュースは「既存のマシンでも、適切な解き方であればなんとか勝てるというレベルの話でした」と大関准教授。
「量子ゲート方式は、『このような方式の量子コンピュータを作ると既存のコンピュータとどれくらいの性能差が出るか』という研究に注力してきました。今回の発表は、既存のコンピュータでは越えられない“壁”を実際の量子コンピュータで破ったということを主張しています」(同)
つまり、量子超越性の実証は量子ゲート方式の量子コンピュータにとっての一つの到達点であって、量子アニーリング方式の4年前の成果とは関係がないものということです。
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