量子アニーリング方式には、量子超越性のような到達点の基準はないのでしょうか。
「量子アニーリングは、最適解かそれに近い解を汎用的に出せるという意味では『メタヒューリスティクス』(ヒューリスティクス:高速に解を出すが解の精度に保証がないアルゴリズム)といえます。一方、これくらいの時間をかけると確実に問題を解けるという見積もりもあり、単純なヒューリスティクスほど“だらしのない”計算方法ではありません。とはいえ計算量理論に基づく量子ゲート方式における『量子超越性』のような明確な基準は、量子アニーリングには設けられていないのが現状です」と、大関准教授は量子アニーリング方式と量子ゲート方式の出自の違いを説明します。
「量子アニーリングは、どちらかというと自然の振る舞いを明らかにしようという研究の方向性があった背景もあります。量子ゲート方式のように計算機科学を始め、計算複雑性、オペレーションズリサーチ(数理モデルなどを利用して計画を効率的に決定する科学的技法)などを含むさまざまな知見を持った人がこぞって研究をしてきたわけでもないので、量子コンピュータの本流とは研究の方向性に違いがあります」(同)
量子アニーリング方式に重心を置く大関准教授は、「量子超越性の発表で量子ゲート方式に注目が集まることでしょう。しかし、それで『量子アニーリングは別物』として関心を持たなくなるのはもったいないこと」とこぼします。
「『組合せ最適化問題』しか解けないといわれる量子アニーリングですが、例えば、量子ゲート方式に適用できる素因数分解アルゴリズム(ショアのアルゴリズム)を量子アニーリングで実現できることは論文で示されています」(同)
さらに、量子アニーリングは最終的には量子ゲート方式と同じ計算ができるようになるともいいます。
「量子アニーリングマシンを作るカナダD-Wave Systemsは、次の次の次くらいで量子ゲート方式と同じ計算ができる量子アニーリングマシンを出そうとしています」と大関准教授。量子アニーリングでも、量子ビットどうしの重ね合わせをうまく調整できるような相互作用を導入できると、ゲート方式と同じ汎用的な量子計算ができるようになると話します。
「だから、量子ゲート方式も量子アニーリング方式もバランス良く見ているのが大事で、片方を捨ててしまうというのは研究の芽を摘んでしまうことにもなります。進んでいく道をわざわざ狭める必要はないのではないでしょうか」(同)
一方で、「量子アニーリングで『巡回セールスマン問題』(組合せ最適化問題の一種)が解けない」という話題をITmedia NEWSでは取り上げたことがあります。
これについて、大関准教授は「われわれの意見としては『解けます』ですが、解けないと思ってしまった理由も分かります」といいます。どういうことでしょうか。(次回に続く)
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