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「Aの左」に位置するキーに文化を見る キーボード配列とコンピュータの歴史(4/5 ページ)

» 2019年12月17日 14時26分 公開
[大原雄介ITmedia]

Controlはなぜ左下に追いやられたか

 こうした動きと無縁だったのがIBMである。

 もともと同社はパンチカードを高速に集計するTabulatorというマシンを製造していた会社と、タイムカード管理マシンの会社、貨幣勘定機を製造していた会社の3つが合併してできたが、このパンチカード部門が大きく伸び、現在につながっている。その途中でオフィス向けシステムも手掛けるようになっていき、その中には当然タイプライターもあった。

 電動タイプライターといえばIBM Seletcric Typewriter(Photo09)が一番有名だが、実際には1947年には既にIBM Electric Typewriterが発売されており、Selectric Typewriterが世の中に出たのは1961年のことである。

photo ちょっとキーボード面が光っているのでアレだが、Aキーの左にあるのは"LOCK"。要するにCaspLockである。これはIBM 100のSelectricの写真より。

 これらはやがてワープロに置き換わっていくわけだが、このタイプライターがコンピュータの入出力に使われた、というのはDECとテレタイプの関係に同じである(というか、IBMの方が先でDECがまねをしたかったけれど、自前では電動タイプライターを用意できなかったために、TeletypeのASR-33を使った可能性もある)。これが最初の製品、という自信はない(もう少し前から何かあった気がするのだが、探しきれなかった)のだが、1963年に登場したIBM 1050(正式名称はData Communications Systemだが、要するに端末である)は、Selectric Typewriterと同じくゴルフボール状の「タイプボール」による印字システムを搭載しているが、そのキーボードは下記の写真の通り。

photo WikipediaのIBM 1050の写真より。ちなみにこの写真に写っているのは、IBM 1050のうちの一部のIBM 1052(Printer-Keyboard)で、IBM 1051その他のデバイスを組み合わせる必要があった

 Aの横はCapsLock(というか、ShiftLock)になっている。こうした流れをくんで、1972年に出たIBM 3270といういわゆるターミナルが、こうしたプリンタ+キーボードにとって取って代わる形で普及し、その後はIBM 5250に続くのであるが、キーボードは次の通り。

photo WikipediaのIBM 3270の写真より。ちなみにこれはちょっと後(1979年)に出た、IBM 3270 Colour Display Terminalのものである。Aの左はLock(錠前マーク)で、CapsLockと判別できる

 制御コードの概念がなかったわけではなく、実際にEBCDICと呼ばれるIBMの文字コードにも制御コードそのものはあるのだが、キーボード側から明示的にこれを送る場合は専用キー(上の写真で左右にそうしたキーが配されているのが分かる)を利用したようで、少なくともControl+XXX、という概念そのものがIBMの文化には存在しなかったと考えてよいだろう。

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