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» 2019年12月17日 14時26分 公開

「Aの左」に位置するキーに文化を見る キーボード配列とコンピュータの歴史 (3/5)

[大原雄介,ITmedia]

 このあたりはテレックスのサービスが充実してきたことも関係する。最初の商用サービス開始は1908年、本格的なサービス開始は1924年だが、当初は電話回線の品質そのものが悪かったから、確実に伝達できるようにコード体系は5bit(最大32文字種。ただし00000は未使用になっているので実質31文字種)に限られ、伝達速度も低かったが、1960年代にはいるとASCIIコードが制定(1967年にISO/R646-1967がまず制定され、これが1972年にISO 646になった)され、これを伝達できるようになった他、転送速度も上がっている。いろいろな制御信号を増やす余地ができたが、いちいち専用キーを割り当てられないからControlキーを併用、という理由があったのと思われる。

 この結果として、テレタイプを利用していた文化圏では、Controlキーを煩雑に利用することになる。そのため、使いやすい「Aキーの横」にControlキーが配されることになったのだろう。ただテレタイプが進化して、大文字小文字をサポートできるようになってくると、当然ながら英文ワープロ的な用途が増えてくる。こうなると、そこでCapsLock(あるいはShiftLock)も重要になった。ワープロというかタイプライターを使っての英文作成だと、文章先頭だけ大文字で後は小文字だから、原則Shiftキーがあれば済む。ところがわざと全文を大文字にする、なんて場合もしばしばあるが、これをShift押しっぱなしで打つのは大変である。だから、タイプライターにはShift Lockという機構があり、これがCapsLockとして実装されたわけだ。その結果として、より後に出てきたASR-37では、CapsLockキーをAとControlの間に割り込ませている。

photo ASR-37ではControlキーとAの間にCapsLockが割り込んできた。WikipediaのTeletype Model 37の写真より。ちょっと刻印が見にくいのはご容赦を

 さて、テレタイプを利用しているユーザーの多かったDECが、自社のVTシリーズのビデオ端末、あるいはLAシリーズのプリンタ端末のキー配置を、「Aの左にCapsLock、そのさらに左にControl」にしたのはごく自然であり、そして一度配置を決めると後継製品もその配置を継承することになる。かくしてVT100やその後継製品であるVT220/VT320/VT420といった製品も同じように、Aの左にCapsLockとControlが並んでいる。そして、そのDECの製品の影響を受けたCP/M(CP/M-80)も、デフォルトでVT100のキー配置を使うのは、これも自然である。

 先にKaypro IIの写真を示したが、実は国内でもNECのPC-8801が同じ様にAの左にCapsLock/Controlが並んでいる。このあたりはおそらくCP/Mが動作することを前提に、VT100の配置に倣ったのではないかと筆者は考える。

photo WikipediaのPC-8800シリーズの写真より。GRAPHとか、明らかにVT100とは関係ないキーも入っているし、キー配置そのものはJISキーボードに準拠しているので、VT100互換というわけではないのだが

 余談であるが、日本DECで発売していた日本語版端末はあまりそこまで伝統を継承するつもりがなかった(そもそも日本語ではCapsLockを利用するシーンがほとんどない)ためか、先のPFUのページに掲載されているLK411-AJとLK411-JJ(型番からすると、どちらもVT420の日本語対応版のキーボードと思われる)はCapsLockの位置が異なったりする(LK411-JJにはCapsLockキーそのものがない)といった違いが見られる。

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