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コラム
» 2019年12月18日 07時00分 公開

災害発生時の「現金最強説」は本当か キャッシュレス決済の現実 (1/3)

大災害が相次ぐ日本。もしもの時に頼れるのは現金で、キャッシュレスは全く使えない? 支払い手段をどう持っておくべきなのか、考察を交えながらまとめていく。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
ユーザーのQRコード(バーコード)を読み取る、メルペイのmPOSを導入した大阪アメリカ村の甲賀流本店

想定外の大災害とキャッシュレス

 「災害列島」──。近年頻発する大地震や巨大台風、異常気象など、大規模な自然災害が日本に降りかかる様子のことだ。少し振り返っただけでも、関西国際空港を孤立させた2018年夏の「台風21号」、北海道全島を停電に陥れた18年9月の最大震度7「北海道胆振東部地震」、2019年には千葉県などを中心に首都圏を相次いで襲った「台風15号」と「台風19号」の2つの巨大台風が記憶に新しい。

 どれも観測史上最大級というのが特徴で、設備の耐久力を上回るほどの威力が被災地のインフラを破壊。結果として、数日〜数週間単位で復旧に時間を要するほどの爪あとを残していく。

 こうした中で話題になったものの一つが「キャッシュレス」だ。政府は現状で2割強というキャッシュレス決済の普及率を、25年までに40%程度まで引き上げることを目標にしている。しかし、インフラ復旧がままならない中、店のレジやATMがダウンし、残った商品を現金で販売する小売店の姿がメディア各社で報じられれば、「やはり現金が最強だ。キャッシュレスなど災害時には無力だ」という声が出てくるのも当然だろう。

 もちろん、店舗・ビルのシステムや流通だけでなく、電気や水道、下水、ガスのインフラもまひしている状況でキャッシュレスの話だけを持ち出すのもナンセンスだが、限られた状況で「最後に頼りになるのは現金」というのも正論だ。

 筆者は普段、決済や小売など各種流通、交通インフラなどに関する執筆を行っているが、最近は「災害時のキャッシュレス」のテーマで原稿を依頼されたり、あるいはTVや雑誌の取材で「自然災害や大規模障害が報告されてなお、キャッシュレスを推進すべきか」といった文脈での質問をされたりといったことが増えてきた。そのため、最近は関係各所へのキャッシュレス取材の際に、「災害対策はどうなっているか」と合間を見てたずねている。

 各所への取材から見えてきた、「キャッシュレス派は災害や障害に備えてどうするべきか」という話を、考察を交えまとめてみたい。

大規模停電、止まるレジ それでも支払う方法は

 北海道の停電のケースが顕著だったが、周辺エリアが全て停電している場合、キャッシュレスは完全に無力だ。

 当時はセブンイレブンで店舗内の非常用電源が稼働しATMなどが利用できたり、北海道では最大手のコンビニ・セイコーマートでは電源車を接続して店舗運営を継続したりと、予備電源の有無が運命の分かれ目となった。

 実際にコンビニを含む流通各社に個別に質問を繰り返していたところ、このような非常用電源装置が備え付けられているケースは“まれ”だという。

 「停電後はレジなどが使えなくなるため、簡易端末をレジ代わりに使用している。現状は900ワットの発電機を店舗の事務所に導入していますが、投光器や携帯の充電器が使用できる程度の小さな容量であって、POSレジまではカバーできていません」(ローソン)というように、基本的には停電した時点でキャッシュレス決済は利用できなくなる。

 ローソンでは停電時の店舗営業継続を支援する目的で、今後は容量の大きい発電機の導入を検討しているという。しかし、災害による広域停電まで想定できるかというとやはり難しい部分はある。

 クレジットカードや電子マネーは、基本的には電源や通信が絶たれればその時点で利用できなくなる。POSのみの大手チェーンや、「CCT」(信用照会端末)のような決済・照会端末を導入する小売店も同様に、電源が多重化されていないケースがほとんどだろう。

 宅配業者のドライバーや一部店舗が導入しているような、SIMを内蔵して携帯電話のネットワークに接続できるスタンドアロン型の決済端末であれば利用可能だが、多くの小売店の決済端末は据え付け型が中心のため、通常は利用できないと考えるべきだ。もし使える可能性があるとすれば、最近増えている、スマホでのQRコード決済だ。

地方商店ではMPM方式のQRコード提示でPayPayを導入する店舗が多い。和歌山県白浜にて

 POSに接続して赤外線スキャナーで読むタイプのものは難しいかもしれないが、バッテリー駆動が可能なスマートフォンやタブレットを用いる「mPOS」(エムポス)タイプのものや、ユーザーが自身の端末で店舗のQRコードを読み込み、決済金額を入力する「MPM」(マーチャントプレゼンテッドモード)と呼ばれる静的QRコード方式の支払い手段であれば、インターネット接続とサービスが継続している限りは決済が行えるだろう。ただ、MPMでもPOSとひも付くようなシステムだと結局はPOS次第になるため、MPMでも決済できるかはケースバイケースになることは注意しておいてほしい。

1つの手段だけに頼ると大変なことに

 これは昨今の大災害を教訓として分かったことだが、“キャッシュレス原理主義”的な考えでは、突発的な事態には対応が難しい。筆者は普段の買い物もできる限りクレジットカードと電子マネーで済ませているが、これでは前述のような災害時にはおそらく対処できない。

 やはり現金やコード決済のような代替手段を用意しておき、その時々で使い分けられるようにしておくのがいいだろう。海外旅行で1枚しかないクレジットカードが何らかの理由で突然使えなくなった場合、代替の決済手段がなく身動きが取れなくなる、といった事態を想像してもらうのもいいかもしれない。

 先日は楽天カードが数日間にわたって利用不能になり、楽天ペイなどの周辺システムも巻き込んで大障害となった。これも、楽天カードを含む同社のサービスのみを利用していた場合は回避手段がないわけで、「備えあれば憂いなし」というのはキャッシュレスの世界でも通用する言葉だと思う。

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