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災害発生時の「現金最強説」は本当か キャッシュレス決済の現実(3/3 ページ)

» 2019年12月18日 07時00分 公開
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 理由はいくつかあるが、「キャッシュレス決済の普及自体がここ10年ほどのことで、参考になるケースがほとんどない」「仮に障害が発生しても全国規模ではなく局所的で、ニュースとして話題にならない」「英ロンドンで昼間にクレジットカードの大規模障害があったが、みんな適当にティータイムを楽しんでいる間に復旧した」といった具合だ。

 ただ、筆者が唯一参考になると思ったのは、2012年10月に米国東海岸を襲ったハリケーン「サンディ」のケースだ。このときは米ニューヨーク市が広範囲にわたって浸水し、地下鉄や自動車のトンネルの多くが水没したほか、ニューヨーク証券取引所も2日間閉鎖を余儀なくされ、電力を含むインフラ復旧まで数週間を要した。

ハリケーン・サンディで2日間営業を停止したニューヨーク証券取引所(NYSE)。写真を撮影した日はちょうどSlackの上場日だった

 世界最大の都市での大災害ということもあり、さまざまな情報が報じられたため、これらがアーカイブとして大量に残っている。このため、月日が過ぎた現在でも「都市インフラは自然災害にどう対処すべきか」というテーマでの研究が可能となっている。当時の米国は「キャッシュレス先進国」といえるほど決済インフラは発展していなかったが、「災害時の決済では現金が重要」というのは見て取ることができた。

サンディ通過後に現れた「大量のATM」

 サンディ通過後にニューヨーク市内各所でまず見られたのは、当面の生活費と移動手段確保のためにATMとガソリンスタンドに長蛇の列が発生したことだ。人が殺到することでATM内の現金やスタンドのガスもすぐに底を突くので、この供給体制が問題になった。

 ここで何が行われたかといえば、銀行による大量の臨時ATMの設置だ。これにより、行列をさばくとともに、1台当たりにストックしてある現金が足りなくなる問題に対処した。移動ATMは日本でもイベント会場などでよく見られるが、いろいろ聴き取りを行っていると、そもそも災害時の出動は想定していないという。

 このような大量のATMは普段は使わないものなので、ある意味無駄なのかもしれないが、とっさの機転でATMを大量配置するという行動はなかなか目からうろこだ。キャッシュレスの推進もさることながら、そのバックアッププランとして災害時にどのような決済手段が有効で、それを必要な人に実際に届けることが可能か、そろそろ日本全体で検討してもいい時期なのかもしれない。

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