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私たちの命と健康はどう守られる? 医療界のAI活用例よくわかる人工知能の基礎知識(3/4 ページ)

» 2019年12月23日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

AIを使ったアフターケア

 最後はアフターケアだ。入院や通院がいったん終わっても、病気の再発を防ぐなどのケアが必要になる。

 米国のスタートアップSenselyは、退院後の患者の経過観察を行うアプリを提供している。アプリを起動すると、CGで描かれた人間のようなアバターが表示され、患者に対して自然言語で問いかける。患者はそれに音声で答えたり、画面をタップしたり、あるいは指示に従って各種デバイスで計測したりするだけで、1日5分程度で自分の健康状態を記録できる。そのデータが、医療機関のカルテに保管されるという仕組みだ。

 Senselyのアバターは、患者の感情を把握する機能も備えている。アバターはCGを使ったソフトウェアであるため、患者の性別や年齢層に合わせてアバター側も見た目や振る舞いをカスタマイズできる。さらに感情分析の結果も医療機関と共有できるため、患者にとっては自分専属の介護士兼セラピストのような存在だ。

 マクロレベルではどうか。先述したKNIとNECの取り組みでは、不穏行動の予測だけでなく、患者の退院に関する予測も行っている。ある実証実験では、入院翌日の電子カルテデータを分析することで、回復のめどが立った場合に、転院が望ましい病院などを84%の精度で予測できたそうだ。

 そうした予測が可能になれば、退院や転院等の調整を最適化できる。入院の早期からそうした予測ができれば、受け入れ等の調整がスムーズに進み、病院内の病床の稼働率を上げることにもつながるため、海外でもこうした取り組みは進んでいる。

 予測と最適化について、もう一つ例を紹介したい。筑波大学、つくばウエルネスリサーチ、NTTデータ経営研究所の産学共同研究チームが開発した「健幸政策SWC-AI」だ。

 これは自治体に最適な健康施策をAIが提案するというシステムで、20年4月に実用化することを目指している。AIは自治体から得られた住民の健診・医療・介護データを分析することで、その地域で起きている疾病の特徴を把握し、住民のライフスタイルから健康上の課題の原因となるものまでを推定する。

 さらに将来どのような病気が増え、それによって医療費・介護費にどのような影響が出るかをシミュレーションした上で、費用対効果の高い施策を複数提案してくれるという。さまざまな治療行為から生み出されるデータを、他の膨大なデータと組み合わせてAIが解析し、公共政策の領域にまで踏み込んだ提言を行う――そんな時代が到来しようとしているのである。

 以上の整理は、あくまで現状の「医療」のあり方に基づくものだ。こうしたAI活用が進めば、人間の医師は治療行為に専念できるようになるだろう。そしてAIが常に人々を見守るような状態が生まれるに違いない。医療分野に限った話ではないが、人間の専門家の働き方は、AIの登場によって一変していくだろう。

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