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本業はエンジニア、副業は探偵――2つの顔を持つ男が始めた「ITを使った浮気調査」の実力(1/3 ページ)

» 2019年12月25日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 表の顔はエンジニア、裏の顔は探偵――。都内某所に、そんな男性が立ち上げた探偵事務所が存在する。創設者の船木孝則氏(仮名)は、ソフトウェアメーカーや金融系SIerを経て独立し、フリーランスのエンジニアとしてシステム開発などに長年携わってきた経験を持つ。

 事務所の名は「東京IT探偵」。船木氏が2017年に設立し、浮気調査を中心に、人探しや盗聴器の探索などを請け負っている。同氏の他にも、組み込み系のエンジニアとWebデザイナーを本業とする探偵が2人在籍し、2足のわらじを履きながら調査に協力している。

 船木氏の探偵としてのモットーは「エンジニア経験を生かし、ITをフル活用すること」。まだ試行錯誤を重ねている段階だが、プログラミングを活用した業務自動化などを採り入れ、浮気調査の効率化を図っているという。

 ある時はエンジニアとして事務所でコードを書き、ある時は夜の闇に紛れて調査対象者を尾行する――。そんな日々を送っている船木氏がITmedia NEWSの取材に応じ、ITを使って解決した浮気調査のエピソードを語った。

photo 自身が編み出した調査方法を語る船木氏

「C#」でオリジナルアプリ構築、夫のSNSを監視

 「夫が浮気をしているかもしれません。でも、証拠はないんです」。船木氏の事務所にある日、浮かない顔をした女性が訪ねてきた。依頼人の夫は仕事が忙しく、日付が変わってから帰宅することもしばしば。帰りが遅い場合でも、浮気相手と密会していたとは言い切れない。だが依頼人は、ふとした折に、何かを隠しているような雰囲気や女性の影を感じていたという。

 依頼人が浮気相手の候補や勤め先を知っていれば、船木氏も尾行や調査の計画を立てやすい。だが今回は、「浮気をしているかも」という漠然とした事前情報しか得られていない。どうすればいいのか――。

 迷った結果、船木氏はプログラミング言語「C#」を駆使し、とあるアプリケーションを構築することにした。Webサイトを自動でクロールし、必要な情報を抽出する「Webスクレイピング」の技術を活用したアプリで、船木氏はこれを使ってSNSを監視することにしたのだ。

 「依頼人の夫を家や職場の近くで毎日待ち伏せして尾行し、行動を逐一監視するのが探偵業の定石だ。だがその手法は、膨大な時間や費用がかかるため非効率だ。この手間を独自のアプリを使うことで解消したいと考えた」(船木氏、以下同)

一晩で2テラバイトの画像を収集

 依頼人の女性は、夫のFacebookアカウントを知っていた。船木氏はまず、それを手掛かりに、夫とFacebookでつながっている友達をリストアップ。Facebookで公開されている氏名とプロフィール情報を基に、夫とInstagramでフォロー/フォロワー関係にあるアカウントも全て特定した。

 その上で、鍵を掛けていないFacebook/Instagramアカウントが投稿している写真や画像を、オリジナルアプリを使って一気に収集した。「一晩自動で動かしただけで、デスクトップのサーバ上に約10万枚、容量にして約2TBの画像が集まった」と船木氏は振り返る。

 次に、収集した膨大な画像を対象に、フリーソフトを使って類似画像検索をかけ、似たような景色が写っている写真を判定した。その結果、一部のユーザーが、似たような店や皿、料理の写真を投稿していることが分かった。投稿者は依頼人の夫と知人女性だった。投稿日時は水曜日の夜が多かった。

 ご丁寧にハッシュタグまで添えられていたため、船木氏は写っていた飲食店を特定。毎週水曜日に張り込みを続け、夫と女性が2人で出てくる場面を撮ることに成功し、依頼人に報告した。

 不倫カップルがアカウントに鍵を掛けずに“におわせ投稿”をしていたのはレアケースであり、あまりにも脇が甘すぎる。そのため、船木氏もこの手法が浮気調査の最適解だとは考えていないという。だが、「業界で一般的な浮気調査の方法よりも、コストと効率を大きく改善できたのは確かだ」と、船木氏は手応えを語る。

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