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本業はエンジニア、副業は探偵――2つの顔を持つ男が始めた「ITを使った浮気調査」の実力(2/3 ページ)

» 2019年12月25日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

出入り口が2つあるラブホテルを1人で監視

 探偵業界での浮気調査は、一度写真を撮っただけでは終わらない。依頼人が写真を証拠として訴訟を起こす場合に、夫が「一緒にいたのは風俗店の女性だった」「一夜限りの関係で、恋愛関係ではない」と主張する可能性があるので、長期的な関係の証拠として、期間をおいて二度目の写真撮影を行うのがセオリーなのだ。

 船木氏はかつて短期間だけ、探偵業の下積みを兼ねてデリバリーヘルス(デリヘル)の運転手として働き、デリヘル嬢をラブホテルに送迎していたことがある。その経験上、都内のラブホテル街の位置関係を熟知している船木氏は、Instagramの投稿から特定した飲食店の近くにあるラブホテルも知っていたという。そこで日を改めて、そのホテルに張り込むことにした。

 「面倒なことに、そのラブホテルには出入り口が2つあった。張り込んでいる扉と逆方向から不倫カップルが出てきた場合は、みすみす取り逃がす恐れもある。ここでも、何か新しい手法が使えないかと考えを巡らせた」

 その結果、船木氏が考えたのは、無線LAN方式の小型Webカメラを用意し、表口の近くの植え込みに設置した上で、裏口から遠隔監視する方法だ。

photo タブレット端末で資料を閲覧する、探偵の船木氏

 まず植え込みにカメラを設置し、バッファローの強力なWi-Fiルーターを持ってクルマに乗り、裏口付近に移動する。次にクルマを停めた後、ルーターを使ってWebカメラをネットにつなぎ、車内のモニターに映像を表示させる。その上で、裏口を目視で確認しつつ、モニターで表口の様子も見る――という流れだ。

 この作戦が奏功し、船木氏は依頼人の夫が浮気相手と表口から出てくる場面をモニター上で目撃。素早くクルマを走らせて2人が歩き出した方向に回り込み、2人の顔写真を正面から撮ることに成功した。

 こうした場合、一般的な探偵事務所は、表口と裏口に2人の調査員を張り込ませたり、両方の出口に録画式のカメラを仕掛けて後から回収したりといった手法を採る例が多いという。前者は人件費がかかる点、後者はカメラが第三者に盗まれるリスクがある点などの課題がある。

 船木氏は今回、アプリを使った独自調査で、カップルがホテルを訪れる曜日を事前に知った上で、カメラを短時間だけ活用した。そのため、探偵が張り込む時間や人件費、カメラが盗まれるリスクの低減に成功。依頼人の相談料を他社より低くした上で、浮気調査を完遂できた。船木氏は「探偵の仕事は、あくまで証拠を押さえること。写真を提出した後、依頼人と夫が別れたかどうかは、連絡をもらっていないので知らない」と涼しい顔で話すが、独自の調査方法が結果につながることに自信を持てたという。

なぜエンジニアが探偵を始めたのか きっかけは離婚

 ここまで取材した段階で、筆者にはある疑問がわいた。日本社会では副業が広がりつつあるが、探偵とエンジニアを掛け持ちする人は珍しい。船木氏はなぜ探偵の道に入ったのか。なぜ「他社との差別化」にこだわるのか――。

 「エンジニアから探偵の道に入ったきっかけは、私自身が離婚したことだ」。取材に対し、船木氏はぽつりぽつりと語り出した。

 船木氏と元妻は、大学卒業後すぐに結婚。長年にわたって連れ添い、子宝にも恵まれた。エンジニアとして働き、妻と子の待つ家に帰る。船木氏はそんな平和な日々を過ごしていた。だが、結婚15年目を迎えた2014年、船木氏が仕事を終えて帰宅すると、妻は子どもを連れて家から姿を消していた。

 妻の実家や友人の家を訪ねても、いない。どこに消えたのか見当もつかなかった。家出なのか、事件なのか。しばらく途方に暮れていた船木氏の元に、一通の文書が届いた。離婚調停の呼び出し状だった。

 「妻は私から家庭内暴力を受けていると主張し、離婚を望んだ。私は身に覚えがないので否定したが、妻は『DVの被害に遭った』の一点張り。だが、妻は証拠となる映像や録音、けがの診断書などを持っておらず、裁判所に提出しなかったため、議論は平行線をたどった」

 代理人を介してやりとりするうちに、船木氏はとある疑惑を覚える。「もしかしたら妻が浮気をしており、今回の出奔の裏で、男が手を引いていたのではないか。思い返せば『様子がおかしいな』と感じたことは確かにあった」

 だが、船木氏にも妻が浮気をしていた証拠はない。そのため、裁判では妻の不貞を主張できず、議論は2年超にわたって続いた。そして16年末に、「船木氏は慰謝料を支払う必要はないが、子どもの親権は妻が持つ」という結論のもとで終結。ようやく離婚が確定した。

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