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放送同時配信はNHKの野望なのか?(1/2 ページ)

» 2019年12月28日 06時07分 公開
[小寺信良ITmedia]

 今年5月の改正放送法によって、NHKはテレビ番組の常時同時ネット配信が法的にReadyの状態となった。これに対して民放はNHKを脅威とみなし、牽制する構えを崩さないが、これは特に珍しい動きではなく、NHKが新しいことを始めようとする際には常に反対するのが民放のスタンスである。

photo NHKのインターネット活用業務について

 NHKでは、「NHKインターネット活用業務実施基準(案)」(PDFへのリンク)の認可を総務省に申請し、準備を始めているところだが、この基準案を受けて総務省では、(1)業務全体の見直し、(2)受信料のあり方の見直し、(3)ガバナンス改革、(4)インターネット活用業務、の4つのポイントの改善を「考え方」という形でリクエストしている。

 一応は行政指導ということになるのだろうが、少なくともこれが改善されない限り、却下はしないものの認可の延期も考えられるわけであり、しかもガバナンス改革までリクエストしているわけだから、この総務省のリクエストを無視して進ませないように釘の中にさらに釘を刺している格好だ。

  • NHKインターネット活用業務実施基準の変更案の認可申請の取扱いに関する総務省の基本的考え方(PDFへのリンク
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 総務省としてはNHKの収支悪化を懸念しているという報道もあるが、NHKは国営放送ではないので、収益が悪化しようがどうしようが、国が心配してやることではない。結局これを通して民業圧迫を牽制しているということである。

 NHKに対して厳しすぎるという意見もあるだろうが、NHKは特殊法人であり、放送法によって業務が縛られている。国としては、NHKを守るよりも民放を守る方が、筋は通るわけである。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2019年12月9日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから

同時放送のシステム構成を予想

 NHKはご承知の通り、ほぼほぼ日本の都道府県に1つ支局を置いて、各県ごとに放送網を敷いている。多くの番組はAKと呼ばれる渋谷の放送センターから送出され、日本全国の支局を通して放送されるが、それ以外にもBKと呼ばれる制作の連続テレビ小説などが、大阪から全国へ配信されることもある。ちなみにこのAK、BKとはコールサインが由来となっており、東京NHKは「JOAK-DTV」、大阪NHKは「JOBK-DTV」である。

 放送番組編成としては、こうしたAK、BKの番組を主幹としながら、ニュース枠の中で各地方のNHK制作報道番組に切り替わり、ローカルニュース報道を行うという仕組みだ。つまり首都圏と地方で、完全に同じ放送を行っているわけではない。

 番組同時配信では、こうした地方編成もそれぞれの地域で配信するという。つまり、宮崎県内で見る同時配信は、首都圏の番組編成ではなく、宮崎のNHKから放送される番組編成と同じ、ということである。

 具体的な同時配信システムの設置については「NHKインターネット活用業務実施基準(案)」の中ではまだ明らかになっていないが、概要としては各県ごとではなく、各地方にある拠点放送局に配信機能を持たせるようである。例えば九州地方は福岡放送局を拠点として配信するイメージだ。日本全国には7つの拠点局があり、首都圏をカバーする放送センターを合わせて8箇所に同時配信設備が置かれることになる。

 報道によれば、常時同時配信には初期投資に約50億円、運用に年間約50億円かかるそうである。ただ番組の送出ラインから分岐してエンコードしてどっかの配信サーバに繋ぐだけでそんなにかかるわけないやろ、というのがネット屋さんの正直な感想であろう。だが独自配信サーバ運用まで自社で持ち、それを8箇所に設置するとなると、逆に50億で足りるンかいな、と心配になる。

 特に各局が放送しているローカル番組は、同時配信のためにいったん拠点局へ上げなければならない。各局間の番組交換については、NTTの光ファイバー回線を使った裏送り回線網が存在するので、それを利用することになるのだろう。

 インフラの合理性を考えれば、各県の放送をJターンして丸ごと拠点局へ上げていくというのは、無駄が多すぎる。ということは、AKから降ってくる全国放送と地方局から上ってくるローカルニュースのスイッチングも、拠点局側でやるのだろう。

 自動番組送出プログラムのスクリプトを地方局と拠点局で同時に同期させて動かすことになるのかもしれないが、元々自動番組送出機は遠隔地と複数箇所で同時に動かすようには作られていないので、技術的ハードルは高そうだ。

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