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放送同時配信はNHKの野望なのか?(2/2 ページ)

» 2019年12月28日 06時07分 公開
[小寺信良ITmedia]
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ファミリーアカウント問題

 同時配信を視聴するには、NHKの受信料支払者に今後支給されるであろうIDとパスワードを使ってログインすることになりそうだ。これの意味することは、受信料非支払者の排除ではなく、NHKの「広くあまねく」の存在意義からすれば、ネットからだけの受信者からも受信料を徴収していく流れになると見られる。これは既にネット同時配信を行っている他国の例でも、同様の動きが見られるところだ。

 一方でNHK受信料は世帯収集なので、当然発行されるアカウントは家族分なければおかしい。だが現状では、NHKは世帯主の情報しか把握していないはずである。これの意味するところは、視聴者側からの申請により、今後は家族情報もNHKに握られるということになる。

 もちろん、個人情報保護法により目的外利用は制限されるわけだが、逆に言えば最初から収集目的として、子供が独立しそうな年齢になったら受信料を督促するとかいった利用目的が差し込まれる可能性も考えられる。現在のNHK受信料取り立てのトラブル発生具合からすれば、家族構成や子供の年齢をNHKに握られることに対して、一種の不信感は拭えないところだ。

 民放が同時配信に消極的なのは、ネットからは収益性が見込めないので、やる意味がないからである。テレビを熱心に見る層はもはや高齢者だけであり、高齢者はネット利用率が低いので、同時配信には関係ない。

 そうなると同時配信について伸びしろがあるのは若者から中年層にかけてであり、ただでさえテレビ離れが進んでいる状況の中、そこすらもNHKの独壇場になりかねない。民放が懸念しているのはそういうところだ。オマエだけ生き残るのはズルい、という話である。

 ただ民放側も、莫大なコストをかけて実現してきた放送というインフラを、ネット側へコスト分散していくという発想ができないのは残念なところだ。すでにラジオでは、そうしたコスト感覚で動いているにもかかわらず、だ。既得権益で永らく生きていると、民間企業とはいえコスト感覚が鈍っている。

 NHKはコスト感覚を持て、と総務省は指導するが、返す刀で民放テレビ局にも、同じ指導をすべきであろう。

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