中国・武漢市発の新型コロナウイルス感染症「COVID-19」(以下、新型コロナ)。中国では16日時点で感染者数が7万人を超え、死者数は1770人になった。報道機関が連日伝えている通り、新型コロナウイルスは日本にも上陸しており、感染者数338人(16日時点、うちクルーズ船内の感染が285人)、死者1人と数が増えつつある。
こうした状況を受け、日本国内では大規模なイベントの開催可否について、各主催企業・団体が判断を迫られている。いくつかのイベントは中止を発表したが、状況を把握した上で開催するとの判断を示しているところもある。
世界各国からカメラ関連メーカーやユーザーが集うカメラ見本市「CP+2020」(パシフィコ横浜)は、2月末に開催を予定していたが中止を決定。ユーザーが新しい機材を実際に触れるのが特徴の展示会ゆえに、感染リスクを排除し切れないと判断したという。
墨田区などが2月末に両国国技館で予定していた「第36回国技館5000人の第九コンサート」も中止に。イベント事務局は「会場の衛生環境に配慮の上で準備を進めてきたが、出演者や観客の健康と安全を第一に考えた」という。購入された入場チケットの代金は払い戻しする。
海外でも、スペイン・バルセロナで2月末に開催予定だったモバイル関連カンファレンス「MWC Barcelona 2020」が中止になった。世界中のモバイル業界が参加する年に一度のイベントだが、主催の業界団体GSM Associationが中止を判断する前に、主要な参加企業(ソニー、NTTドコモ、楽天モバイル、米Amazon.com、韓国LG Electronics、米Intelなど)が相次いで出展を取りやめていた。
ビジネス向けの各種見本市を手掛けるリード エグジビション ジャパンは、幕張メッセで2月26〜28日に開催予定の「日本ものづくりワールド」について、感染症対策を行った上で「予定通りに開催する」としている。
同社は「本展には中国湖北省、浙江省からの直接の出展はない」とした上で、「手洗い消毒液の設置」「咳エチケットと頻繁な手洗いを推奨する看板の設置」「救護室の設置」「医師、看護師の常駐」などの対策を取るという。サーモグラフィーでの体温測定も行い、37.5度以上の場合は問診票を記入し医師との面談も行った上で入場を断る場合もあるとしている。
池袋サンシャインシティで2月29日・3月1日に開催を予定していた、IT系の技術を扱う同人誌即売会「技術書典8」の運営事務局は2月15日時点で、新型コロナ対策を協議した上でイベントの開催を決定していた。しかし17日午後4時にイベントの中止を発表した。
事務局は当初、開催決定の判断を「苦渋の末の選択」と説明していた。同人誌即売会という性質上、個人出展者の事情を考慮する必要があるからだ。事務局は「出展者は自らの資金で書籍を制作している点」「技術書典の場で実質的な経済活動が発生しているため、中止の場合に出展者に大幅な赤字が発生し、困窮が予想される点」を、考慮すべき例に挙げた。
開催に当たり、マスクの着用、手洗い・咳エチケットの徹底、消毒用アルコールの設置など対策を行う。新型コロナを理由に出展をキャンセルする場合には、出展料の返金は行わないが、それによる次回参加などへのペナルティーは取らないとしている。また、関連省庁から集会の自粛要請などがあった場合にはやむなく中止する可能性もあるという。
事務局は「出展者は参加でもキャンセルでも苦しい思いが残るはず」と配慮した上で、「お互いが決めた決断に敬意を払って接し、非難するような言動は避けてほしい」としていた。
17日に一転してイベント中止を決定した同事務局は、新型コロナに関わる状況の急激な変化と「不要不急の集会自粛」の報道などを受け、来場者の安全確保と当日のスタッフ確保が困難であるとあらためて判断したという。同イベントは内容を変更してオンライン上で開催される。
【追記:2020年2月17日午後7時 初出時、開催されるイベントの1つとして「技術書典8」を紹介していましたが、同事務局が中止を発表したため、詳細を追記しました。】
安全を第一に考えるのなら、イベントを中止するという判断になるのは自然な流れだ。仮にイベントで感染が起きた場合、感染者が多数に及ぶ可能性もあり、主催者への批判は免れないだろう。
一方で、各イベントは主催・参加企業にとっては経済活動の一部であり、その中止は損失を意味する。イベントの売上が企業全体の中で大きくなければ中止の判断もしやすいが、イベントを事業の主体にしている場合にそれを止めるのはビジネスの停止に等しい。
安全上のリスクとイベントを中止するリスクをてんびんに掛けた上で、安全のためにできうる限りの対策を取り、開催を決定するというのも難しいながらもありうる判断だろう。
新型コロナウイルスの脅威は決して軽視するべきものではないが、「死の病気」であるわけでもない。とはいえ治療法や感染状況の先行きが見えない中、企業は引き続き難しい判断を迫られることになりそうだ。
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