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AIで作った漫画に“手塚治虫らしさ”は宿るのか? 前代未聞のプロジェクト、ピンチ救った「転移学習」(3/4 ページ)

» 2020年02月27日 10時45分 公開
[村上万純ITmedia]

 プロジェクトメンバーのほとんどが「最も苦労した」と語るのが、キャラクターの顔画像の生成だ。画像を生成するAIと画像を評価する別のAIを「敵対」させ、精度を向上させていく技術「GAN」(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)を活用しており、今回は米NVIDIAが開発した「StyleGAN」を用いた。

キャラクター画像は「StyleGAN」で生成

 まずは手塚作品のキャラクター画像を学習させたが、「ブラック・ジャック」や「三つ目がとおる」など、特徴的な外見のキャラクターが多いことや、正面を向いた顔画像が少ないことなどが原因で、AIはキャラクターの顔を正しく認識できなかったという。数千枚のキャラクター画像を、左右反転や角度変更などで2万枚ほどに増やしたが、それでもうまくいかなかった。

手塚作品のキャラクター画像を学習させたが……
当初はうまくいかなかった

 「学習がうまくいかない原因と思われる作品を外したり、逆に他の作品を追加したりと、学習対象のデータは試行錯誤しました。このままでは(2月の完成に)間に合わないんじゃないかと焦りましたね」と話すのは、キオクシアの国松敦さん(SSD事業部 cSSD技術部 参事)だ。

 国松さんは「手塚治虫先生らしさを感じる漫画を作ることだけが目的なら、プロの漫画家さんに描いてもらうほうが楽ですよね。それをあえてAIで作ろうとしているのですから、当然苦労は多くありました」と当時を振り返る。

 そんなピンチを救ったのは、バックアッププランとして試していた「転移学習」だった。転移学習は、学習済みモデルを別の領域に適応させる技術。数十万枚の実写画像を学習させたモデルをベースに、手塚作品のキャラクター画像6000枚を学習させたという。すると、あくまでバックアップとして試していた手法が思わぬ成果を生み出し、納得のいく画像が生成されるようになった。想定以上の成果が出て驚いたと話す国松さんは、栗原教授と同じく、クリエイターの視点に大きな感銘を受けたという。

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