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AIで作った漫画に“手塚治虫らしさ”は宿るのか? 前代未聞のプロジェクト、ピンチ救った「転移学習」(2/4 ページ)

» 2020年02月27日 10時45分 公開
[村上万純ITmedia]

 ぱいどんは、2030年の東京で、管理社会に背を向けるホームレスのぱいどんが、小鳥ロボットのアポロと共に事件を解決していく――というストーリー。制作に当たり、AIはプロット(あらすじ)とキャラクターデザインの原案を担当。それらを基に、人間のクリエイターが漫画に仕上げた。

 AIに学習させるデータの作成は、人間の手作業だ。手塚作品の世界観や背景を分析するために長編65作品を、あらすじを分析するために短編131話を、用意されたテンプレートに沿って担当者らが一つ一つデータ化した。

プロット作成に用いたストーリー構造。シナリオライターの金子満さんのシナリオ構築方法を参考にしたという

 例えばあらすじの場合、起承転結のような物語構造があると仮定し、あらすじを13段階に分類する手法を採った。担当者の主観もあるため、データにばらつきが出る可能性もあったが、今回はその内容を精査する時間はなかったという。

 作成したデータを学習させると、AIは約130本のプロットを生成した。そこには、物語の舞台や主人公の年齢・性別・性格、3幕構成のあらすじなどが書かれており、プロジェクトメンバーで協議しながら候補を絞り込んでいったという。栗原教授は、手塚眞さんがプロットを評価していく過程が印象に残っていると語る。

AIが生成したプロット
栗原教授

 「手塚眞さんたちが、プロットを見て候補を絞り込んでいったのですが、一見すると意味が分からないようなプロットを面白がったりされるんですね。そして、実際にプロットに肉付けすると本当に面白くなる。技術者視点では、漫画としての完成度が上がりそうな(無難な)プロットを選びがちですが、クリエイターは全くその尺度が違うので、これが人間の想像力のすごさなんだなと驚きました」(栗原教授)

 手塚治虫さんの作品は、奥が深く重厚なストーリーや世界観などが特徴だ。手塚眞さんは「AIは意外な単語を出してくる。手塚漫画は意外性があるので、手塚(治虫)だったらそういう発想をするんだろうなと思いました」と説明する。シナリオ作成はアニメ「ピアノの森」などで知られる脚本家のあべ美佳さんが手掛けた。

一番の苦労は「キャラクター画像の生成」 ピンチ救った“転移学習”

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