論文科学誌「Nature」を発行する英Springer Natureが2019年6月に取りまとめた、2018年の自然科学分野の大学における質の高い論文の割合ランキングで、沖縄科学技術大学院大学(OIST:オイスト)が世界9位にランクインした。日本勢では次いで東京大学が40位、京都大学が60位と、OISTがダントツだ。
OISTは創立から8年、国で大学自体の構想が提唱されてからでも約20年と若く、さらに学生は博士課程からの受け入れであるため、研究者や研究者を目指す学生以外にはまだそれほど認知度が高くない。
しかし、18年の「質の高い論文の割合ランキング」で日本1位、世界9位を獲得してからは、研究者以外からも注目を集めているという。OISTはどんなところなのか。なぜ創立から8年と短期間で世界9位を獲得できたのか。OISTの成り立ちから現在に至るまでと、「世界9位」の意味を探る。
OISTは沖縄中部の恩納村(おんなそん)にある。那覇空港からのアクセスは、高速バスとシャトルバスを用いて約1時間半かかる。
もともとは恩納村の森であり、今でも大学の周りは森だ。大学から北西に少し進めば、沖縄らしいエメラルドの海が広がる。OISTの動物学者や海洋生物学者はこうした立地を生かして研究を行っている。
研究室の数は2020年3月時点で80ユニット、教員(教授と准教授)の数も同じく80人。約2000人の教員を抱える東大に比べれば、総合大学との違いはあるといえどはるかに少ない。
学生数は205人(19年9月時点)で、そのうち日本人学生の割合は15%。日本人の教員も80人中30人で、学内の過半数が外国人で構成されている。
なぜ外国人が多いかというと、OISTは設置目的の一つに「国際的に卓越した科学技術に関する教育研究」を掲げており、当初から国際的に人材を集めていたからだ。
現在OISTに集まる学生は、欧米はもちろん、中国、韓国、ロシア、インド、オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、レソト(南アフリカ)などと多様性にあふれる。このような事情もあり、学内の教育や研究では英語を用いるのが基本だ。
学内には学生向けの居住エリアを設けている。子どものいる職員向けには専用の保育施設を用意し、日本語と英語のバイリンガルで教育を受けられる。研究環境だけでなく、生活面にも魅力を感じてOISTに来る学生や教員もいるという。
OISTの80ユニットのうち、40ユニット以上が生物学に関係する研究を行っている。次いで物理学関係のユニットが約20ユニット、残りが化学と数学のユニットという割合だ。
生物学の研究が多いのは、森や海が近いという立地上の理由もあるが、初代理事長であるノーベル生理学・医学賞受賞者のシドニー・ブレナー氏が遺伝学や分子生物学、神経生物学、発生生物学などで業績を上げた人物であったことも関係しているという。
一般的な大学では、「理学部」もしくは「生物学科」といったセクションが設けられ、近い研究分野の研究室が同じフロア、同じ建物などに集められるが、OISTにはこうした枠がない。
OISTのフロアの一例を見てみると、三日月状のフロアの両翼が実験室(兼学生居室)で、中央左側に教授と准教授用の教員オフィスが集まっている。
広報によれば、教員は着任した順に詰めるようにオフィスに入所しており、同じ研究分野でまとめたりはしていないという。このため、生物学の実験室の隣に物理学の実験室があるのもOISTでは当たり前の光景だ。
また、隣り合う実験室同士にも仕切りがない。同じ実験室であるかのように通路がつながっているため、実験室の出入りの際に他の研究室のメンバーともよく顔を合わせることになる。こうしたところから研究分野をまたいだコミュニケーションが発生するのだという。
OISTの研究体制でユニークなものの一つが、「研究支援ディビジョン」という部門だ。
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