ここはいわゆる「テクニシャン」と呼ばれる、実験作業に長けた技師たちが集まる部門で、研究者から依頼を受けて実験の一部を行っている。
技師を雇うこと自体は、予算に余裕のある研究室であれば特別なことではない。しかし一般的には各研究室の予算で雇うところを、OISTでは一部門として用意しているため、各研究室が必要に応じて実験を頼める。
実験動物の飼育や次世代シーケンサーによるDNA解析、各種顕微鏡などを用いたイメージングといった専門的な作業を技師が一手に引き受けるため、研究者は実験から得られたデータの解釈や論文執筆に専念できる。技師もさまざまな実験を経験して熟達し、実験精度が上がるという。
もちろん、学生が実験の操作自体を学びたければ技師から学ぶこともできる。
このような分業体制が、質の高いアウトプットを支える一因になっているという。
研究のアウトプットを左右する要素として欠かせないのは研究予算だ。OISTの2018年度のキャッシュフローを見ると、国からの運営費補助金等の収入が約157億円で、当時の教員数で割ると1人(1研究室)当たりの補助金は2億7000万円に上る。
同じく理系大学の東京工業大学の同年度の運営費補助金は約206億円だが、教員数で割ると一人当たりは2000〜3000万円程度となる。単純に比較できるわけではないが、OISTの教員は他大学の教員に比べて潤沢な資金を研究に当てられる環境にあるといえる。
【修正履歴:2020年3月18日午後4時 一部表現を修正しました】
OISTがこれほどの運営費補助金を受けられるのは、大学の設立構想が国に端を発しており、沖縄振興計画においてもOISTが重要なポジションに位置しているからだ。
しかし、国もその額については検討しているところだ。19年9月には、財務省がOISTの運営費補助額について東工大などの他大学に比べて「著しく高い」と高コスト構造を指摘。これに対しOISTは、「8年間という短期間で卓越した研究成果を上げている」とした上で、「教員が雇用する研究員まで含めれば1人当たりの補助額は5300万円まで下がる」などと反論していた。
研究者にとっては魅力的な研究環境である一方で、優れた研究成果を出さなければいけないというプレッシャーが掛かる環境であるともいえそうだ。
ここまでOISTの研究環境を紹介してきたが、最初に触れた「世界9位」「日本1位」というランキングの意味を考えたい。
Springer Natureが発表したランキングは、「Nature Index」というデータベースからランキングを集計したものであり、集計したデータの切り口によってランキングは変動する。
例えば国別の研究力ランキングを見ると、ダントツが米国で、2位が中国、以下ドイツ、英国と続き、日本は5位に入る。
研究力ランキングを大学別で見ると、1位は米ハーバード大学、2位が米スタンフォード大学、以下に米マサチューセッツ工科大学(MIT)、英ケンブリッジ大学が続き、日本勢としては東京大学が5位に入る。このランキングにもOISTは現れるが、そのランクは360位。日本勢で近いランクにいる研究機関は、金沢大学(338位)や岡山大学(369位)などだ。
ではOISTが世界9位を獲得したランキングは何であったかと振り返ると、「大学における質の高い論文の割合」、つまり上記の研究機関別の研究力に、研究機関の規模を考慮して指標化したものだ。
OISTが世界9位となったのは研究機関の規模を考慮した研究力ランキング OISTを含め、通常のランキングでは下に埋もれていた大学や研究所が上位に入る。一方、通常のランキングでトップテンに入っていたスタンフォード大やMITなども11位や12位におり、存在感を示しているこれらのランキングは「ホームランを打った総数」と「ホームランの打率」と言い換えると分かりやすいかもしれない。
つまり、東大はホームランの総数は多い(5位)が、バッターボックスに入った回数を考えるとそこまで打率が高いとはいえず(40位)、OISTはホームランの総数は少ない(360位)が、バッターボックスに入れば高い打率でホームランを打っている(9位)といえる。
OISTの打率は素晴らしいことだが、研究予算の多さを考えれば「それくらいの結果は出せて当然」と見る向きもあるかもしれない。OISTが引き続き研究予算を維持するには、さらに研究者を迎え入れたり、研究者のアウトプットを増やしたりしてホームランの数自体も増やしていく必要がありそうだ。
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