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新型コロナウイルスで削除される動画が増える? パンデミックが促すYouTubeの変化動画の世紀(2/2 ページ)

» 2020年03月25日 06時01分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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アルゴリズムによる対応の弊害

 こうした一種の「ワクチン」となる情報を事前に拡散しておくことは、確かに効果的であるとはいえ、COVID-19の場合と同様、ウイルスすなわち偽情報の拡散を防ぐことも並行して取り組む必要があります。しかしいまや毎月20億人以上のユーザーが利用するまでに成長したYouTube上で、膨大な量のコンテンツを誰かの目でチェックしてもらうというのは、現実的な話ではありません。

 そこでYouTubeを始めとして、巨大ソーシャルメディア・プラットフォームではアルゴリズムによるコンテンツの検閲を行っているわけですが、残念ながらまだ信頼できるほどのクオリティーには達していません。例えば2018年には、Facebookが米独立宣言の一部を引用した文章(しかも地元のローカル紙が投稿したもの)を「ヘイトスピーチ」と判定し、同社が謝罪するという事件が起きています。この引用、つまり独立宣言に含まれていた「情け容赦のない野蛮なインディアン」という箇所を、検閲アルゴリズムが問題視した結果でした。ある意味でこのアルゴリズムは、全く正しい判断をしたのですが、独立宣言が書かれた時代(当時はネイティブアメリカンの人々を、現在では蔑称となる「インディアン」の名で呼んでいた)という文脈まで考慮することができなかったわけです。文章ですらこのレベルですから、映像の自動チェックの品質がどの程度かは、推して知るべしといったところでしょう。

 とはいえ全くアルゴリズムを使わずに、全てを人海戦術でチェックするわけにもいきません。そのため機械と人間をどう組み合わせるか、各社が適切な配分を試行錯誤しているのですが、この状況にも新型コロナウイルスの流行が影響を与えています。実は今回のパンデミックで多くの人々が自宅待機を余儀なくされたことで、コンテンツのチェック作業(その一部はリモート化が困難)を担当する人間を確保することが難しくなったために、YouTubeが「アルゴリズムによるチェックの比重を高める」方針を発表しているのです。

 これは3月16日にYouTubeが公式ブログで示しているもので、その中で「今回の新たな措置により、私たちは一時的に、通常はレビュー担当者が行っている作業の一部をテクノロジーに任せる予定です。これは自動化されたシステムが、人間によるレビューなしで一部のコンテンツの削除を開始することを意味し、私たちは違反コンテンツを削除してエコシステムを保護するために、迅速に行動し続けることが可能になります」と解説されています。

photo YouTube公式ブログ

 つまり範囲は明確にされていないものの、YouTubeに投稿される動画の一部で、アルゴリズムが人間の最終判断を仰ぐことなく削除を行うことがスタートするわけです。そしてその結果として、「削除される動画の数が増え、その中にはポリシーに違反していない動画も含まれる」可能性があることも、同ブログ中で説明されています。

 Business Insiderの解説によれば、YouTubeのコンテンツ確認作業は、典型的な人間とアルゴリズムを組み合わせたハイブリッド体制になっています。つまり機械学習によって構築された判定モデルが、ポリシー違反の疑いのある動画にフラグを立て、それを人間がレビューし、削除するか否かの最終的に判定するという流れです。しかし一部の動画で、この人間による確認をスキップすることで、「迅速に行動し続ける」ことが可能になる――その一方で、機械による誤った判断もスルーされてしまう恐れがあるというわけですね。

 テレワークによる遠隔地からの業務の実現、ドローンやロボットによる配送、そして今回のようなアルゴリズムの大胆な活用など、新型コロナウイルスの流行は、さまざまな分野で人間の働き方を変えようとしています。それは決してポジティブなきっかけによる変化ではありませんが、結果的に新しい価値を生み出すチャンスであることは間違いありません。今回のYouTubeの決断も、どこかで「全く違反のない動画まで機械的に削除された」という問題が出ることは避けられそうにありませんが、こうした事態に効率的に対処する策が洗練されていくことでしょう。暗い話題の多い新型コロナウイルス関連のニュースですが、せめてこうした変化が生まれることを期待したいところです。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)『YouTubeの時代』(ケヴィン・アロッカ著、NTT出版)など多数。

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