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» 2020年03月27日 07時00分 公開

銀行口座がなくても街中で現金を引き出せる? 「アフリカの奇跡」ことルワンダのフィンテック事情

今回は、日本が支援するルワンダの貿易事情と、それに絡む貨幣流通とIT企業の関わりをレポートする。取材すると、日本など先進国とは違う、お金のエコシステムが出来つつあることが分かった。

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 さまざまな課題を抱えつつも、約20年で急激な近代化を果たし、「アフリカの奇跡」と呼ばれるようになった小国・ルワンダ。前回の記事ではITスタートアップ企業の成功事例や、その裏にある国民の所得格差や仕事の供給不足の現状を見てきた。

 今回は、日本が支援する同国の貿易事情と、それに絡む貨幣流通とIT企業の関わりをレポートする。取材すると、日本など先進国とは違う、お金のエコシステムが出来つつあることが分かった。

立地的には物流に伸びしろ しかし農家の意識と噛み合わず

 この国を支援と日本企業進出の両面からサポートするのが、国際協力機構(JICA)ルワンダ事務所だ。同事務所の丸尾信所長によれば、「運輸・貿易・電力」「農業」「水」「ICT・教育・イノベーション」の4つの視点から支援を提供しているという。

 例えば運輸・貿易では、ルワンダを流通のハブにするというアイデアがある。同国の周辺にはタンザニア、ウガンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国がある。各国との国境に8つの検問所を整備し、スムーズに物流が行える仕組みを構築することで、比較的道路事情の良いルワンダをハブとして、中央アフリカや東アフリカ各国の物流が整備される可能性が出てくるというわけだ。

JICAルワンダ事務所の丸尾信所長

生産性の低い農業形態 荷台を空にして帰っていくトラック

 しかし、この物流にもいくつか課題がある。ハブとして機能するようになれば、ルワンダが倉庫的な役割を担うことも可能になるが、現実は非常に非効率な一方通行が続いている。

 ルワンダの農業は就労者の多さに比べて生産性が低く、食料さえ輸入に頼っている状態だ。現地の人たちによると、同国の主要生産物のように見えるバナナでさえ、輸入物が食卓に出てくることもあるという。

 これは加工品や工業品も同様で、国境を越える輸送トラックは荷物を満載してルワンダにやってきて、帰るときは空の状態で国境をくぐっていくこともあるという。

 今のルワンダは、それだけ国境の外に出せる魅力的な生産物を持ち合わせていない。そしてそれを作り出すべく、教育や育成、インフラ整備に力を注ぎ、ICTや農業産品を中心に品目を増やしていこうとしている。

農業の生産性が上がらない理由

 ただ問題として挙げられるのが、輸出に値するような商業作物を育てる難しさだ。現地で複数の農家とやり取りしている実業家は、「こうした作物の苗木を大量に抱えて育成が可能な大農家は全体の1割くらいで、残りはごく小規模な畑を家族で守っている程度だ」と話す。

 こうした農家の多くは、自身で食べていく食物を日々育てる傍らに商業作物を育てて現金収入を得ており、いわゆる貨幣経済の枠の外にある。日本のJA(農協)が提供している共同販売などのシステムのようなものは特になく、特定の保護された産品を除いてバイヤーが現金で必要分を買い付ける流れのようだ。

 収入が低いといわれているものの、ルワンダのこうした第1次産業従事者の多くは現金がなければ仕事が回らないというわけではないため、使う金額もそれほど多くないのかもしれない。つまり、農業をビジネス化するモチベーションもそれほど高くないということなのだろう。

 一方で、物流が盛んな国では現金だけでなくさまざまなやり取りの手段が用意されており、売掛などはその好例だ。例えばケニアでは電子マネーも普及しつつある。

 物流がそれほど盛んでなく、その際に必要なお金に対するモチベーションも低ければ、必然的にキャッシュレス化のような迅速にお金をやり取りする方法に興味を抱くこともない。実際、前述のようなバイヤーは大量の現金の束を抱えてルワンダの農家を回っているようで、効率化とは対局の位置にある。

銀行口座がなくても街中で現金を引き出せる仕組み

 このように生活の中から現金が離れないルワンダだが、意外とクレジットカードを利用できる場所は多い。富裕層のほか、会議やビジネス、観光で訪問する外国人が一定数いるため、首都・キガリを中心に普通に外国人が行きそうな店であればだいたいカード決済を受け付けてくれる。

 JCBさえ使える場所もあるので、おそらく同国を訪問する上で普段の食事や買い物で「現金を用意しておかないと困る」という場面はそこまで多くないだろう。

外国人や富裕層が一定数いるためか、現金社会でもカード払いできる店舗はそれなりにある。JCBが使える店舗も

 実際、このようにして国民の多くは現金を使っているわけだが、完全にアナログの世界で生活しているわけではない。ルワンダは国民の多くが銀行口座を持たない、いわゆる「アンバンクト」(Unbanked)に属しているが、その代わりに提供されているのがモバイル端末を使った金融サービスだ。

 同国のスマートフォン普及率は少し前まで1割を切る水準でしかなく、主流はフィーチャーフォンのため、そのサービスもリッチなモバイルアプリではなくテキストベースで数字を選択する形式のインタフェースだ。

 主に利用するサービスは送金だと思われるが、同国最大の携帯キャリアであるMTNが提供する「MoMo」というサービスでは街中のMoMoのロゴを掲げたスタンドで現金の出し入れが可能で、つまり一種の「ATM」として機能する。もちろん、銀行カードやクレジットカードでキャッシングが可能な普通のATMもあるが、MoMoのスタンドはそれ以上に普及しており、市民のインフラとして機能している。

 MoMoでは店舗決済も可能で、だんだんと利用数も増えているようだ。筆者は東南アジア諸国を取材する中で、特にインドネシアやマレーシアなどで「金融サービスはモバイルからやってくる」というトレンドを見てきたが、それはここルワンダでも変わらないようだ。

多くの国民にとっての金融サービスは銀行やカードではなく、携帯キャリアのサービスが主流だ。こうしたスタンドが街のあちこちにあり、ATMに代わる現金の出し入れ口となっている

キャッシュのない世界からキャッシュレスへ移行できるか

 とはいえ、こうしたMoMoさえも必要としない層がルワンダにはまだまだ多く住んでいるという現実もある。都市部で仕事がないということは出稼ぎが難しいということを意味し、出稼ぎがなければ送金需要もない。また農家自身にも必死に稼ぐというモチベーションがなく、貨幣経済そのものから離れてしまっている。

 キャッシュレスはおろか、そもそもキャッシュが必要ない世界というのは想像に難く、国全体の指針を考えるうえでこうした層をいかに経済圏に巻き込んでいくかというのが1つ大きな課題なのだろう。

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