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2020年は量子コンピュータ元年? 実用化の可能性やAIとの関係を考えるよくわかる人工知能の基礎知識(2/4 ページ)

» 2020年04月03日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 現代は、あらゆるモノがネットにつながるIoTの時代だ。いま注目が集まる5Gが整備されれば、それらが扱うデータのやり取りが一層進むことになる。

 調査会社のIDC Japanは、IoTのエンドポイントデバイスが年間で生成するデータ量が、18年の13兆6憶GBから、25年には5.8倍の79兆4憶GBに達すると予測している(20年2月時点)。

 従来型のコンピュータの処理能力向上は限界に達しつつあるといわれていることもあり、膨大な量の情報を高速処理できる量子コンピュータへの期待が高まっているわけだ。

 しかし、実用化はそう簡単ではない、従来と比べてハードウェアが異なるのはもちろん、それを機能させるための情報処理の手順やアルゴリズムも大きく異なる。そのため量子コンピュータの概念自体は1980年代から議論されているのだが、実用的なシステムやサービスという形で一般の話題に上るようになったのは、2010年代に入ってからだ。

 特定の課題に対応することに特化したタイプも登場していることが、話を複雑にさせている。

量子アニーリング方式と量子ゲート方式

 例えば、11年にはカナダに拠点を置くD-Wave Systemsが、「D-Wave」という量子コンピュータの開発に成功したと発表した。

カナダD-Waveの量子アニーリング方式の量子コンピュータ「D-Wave 2X」

 このD-Waveは、「量子アニーリング」と呼ばれる方式を使って実現されたものだった。これはいわゆる「組合せ最適化問題」を解くのに適した方式で、汎用(はんよう)的なものではない。組合せ最適化問題は、指定された条件下で、特定の指標が最も良い状態になるような変数の組み合わせを求める問題のことだ。

 汎用的な、つまり特定の用途に限られない量子コンピュータの開発も進められているが、当然ながらそちらのほうが実現は難しい。それを実現する方式として現在主流なのが「量子ゲート方式」で、GoogleのSycamoreもこれを採用している。ただし量子ゲート方式であればどんな演算でも高速で処理できるわけではなく、高速処理が可能なアルゴリズムには制限がある。実はGoogleが発表した論文でも、彼らに有利な条件で検証したのではないかという批判が出ている。

「史上初の商用汎用量子コンピュータ」という米IBMの「IBM Q System One」

 いずれにしても「どんな問題でも瞬時に解ける夢のコンピュータが実現された」という状態ではなく、まだ発展途上の技術といえる。だからこそ、世界各国でこの分野への大規模な投資が行われているわけだ。

 一方で、大手IT企業はクラウド上で量子コンピュータを使えるサービスを次々と発表している。16年には米IBMが「IBM Quantum Experience」を開始し、19年11月には米Microsoftが「Azure Quantum」を、12月には米Amazon.comが「Braket」を、それぞれ立ち上げた。

量子プログラミングの学習から実行・解析環境までを提供する「Amazon Braket」

 これらはあくまで「現時点で実現されている量子コンピュータの性能にアクセスできる」サービスであり、使い手の側にも試行錯誤が求められるが、こうした商用化の進展を受けて、「2020年は量子コンピュータの導入元年になる」と予測する人々もいる。

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