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2020年は量子コンピュータ元年? 実用化の可能性やAIとの関係を考えるよくわかる人工知能の基礎知識(4/4 ページ)

» 2020年04月03日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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 量子コンピュータの応用先として期待されている分野の一つが、交通問題だ。テレマティクス技術の発展で、道路を走行する自動車からデータを集め、それを管理することは現実的になってきたが、都市全体で全ての交通を管理するとなれば話は別だ。処理すべきデータは膨大で、リアルタイムな処理も求められる。そこで量子コンピュータの出番になる。

 ドイツのフォルクスワーゲングループは17年11月、Googleと量子コンピューティング分野で包括的な研究を行うことで合意した。その目的の一つが、交通の最適化だ。その1年後、同社はD-Waveと共同で、量子コンピュータによる都市交通管理システムの研究成果を発表した。これはバスやタクシーといった交通機関をどのように配置すれば、最も効率的に人や物資を移動できるかという「組合せ最適化問題」を、量子アニーリング方式で解くアプローチだった。

 19年11月には、フォルクスワーゲンとD-Waveがこの交通管理システムの実証実験を、ポルトガルのリスボンで実施。市内を走る一部のバスの走行経路を、量子コンピュータが算出した結果に基づいて決めたという。

 日本だと、例えばリクルートコミュニケーションズがマーケティングにおける量子コンピュータの活用法を模索し、研究開発をしている。その具体的な例の一つが、Webサイト上でのユーザーに対する情報提供の最適化である。

 同社は19年5月に開催された経済産業省の政策シンポジウムで、D-Waveによる量子コンピュータの活用例を発表した。同社は旅行サイト「じゃらん」上で、ユーザーに宿泊施設の情報を提示する際に、その表示順序を決める複雑な計算に量子コンピュータが使えないか検証したという。従来は人気度の高い宿泊施設を上位に表示していたが、表示結果の多様性を実現するために条件を加え、その中で「最適な組み合わせ」を導き出すために量子コンピュータを活用した。実験の結果、実際に売上増加に効果があったとしている。

 社会問題の解決にも、量子コンピュータが役立てられている。東北大学が行っているのは、災害時における最適な避難経路の算出だ。例えば地震によって大きな津波が発生した場合、自動車で逃げようとする人々が大量に発生し、道路が渋滞してしまう。それを防いだ上で、人々を円滑に安全な場所へ誘導するようなシステムの構築に、量子コンピュータを活用している。

 実際に彼らは、高知県高知市の地図を使い、市内に点在する避難場所に自動車を誘導するモデルを構築。避難経路が被らないように調整することで、従来のコンピュータを使った場合に比べて渋滞の発生を抑えられたという。

 量子コンピュータが具体的な価値を生み出す領域として、交通やロジスティクス、マーケティング、さらには新素材開発や創薬といった分野が有力視されている。こうした事例が既に登場していることには注目すべきだろう。

 一方で、新技術には過度な期待が生まれがちだ。AIブームと同じように、多くの期待と失望が繰り返される中で、広く社会に普及する革新的なサービスが生まれてくるだろう。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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