前置きが長くなったが、こうした量子コンピュータの実用化がAIにどのような影響を与えるかを考えてみたい。
最も分かりやすいのは、量子コンピュータの情報処理能力によって、より大量のデータを使った機械学習が可能になるというシナリオだ。大規模なデータを、より短時間で処理可能なコンピュータがあれば、それだけ高度な機械学習を行える。実際にMicrosoftのサティア・ナデラCEOは、17年9月に開催された自社イベントで、量子コンピュータが応用可能な領域の一つとして「機械学習の高度化」を挙げた。
しかし、量子コンピュータで大量の教師データを扱う仕組みはまだ研究段階にある。いくつかのアプリケーションで実装された例があるものの、量子コンピュータによる機械学習の実用化を進めるためには、新たなコンセプトで設計し直すことが必要だという声もある。
近年は量子コンピュータによって、現在の暗号技術が破壊されてしまうのではという懸念が広がっている。いま、電子証明書などで広く使われている「RSA暗号」という技術がある。これは簡単に言うと、「コンピュータで計算させれば暗号が分かってしまうが、計算に長い時間がかかるために暗号としての強度が保たれる」仕組みだ。だが、量子コンピュータがあれば、その前提が崩れて暗号技術としての意味をなさなくなるかもしれない。
このように、圧倒的な計算能力の向上が、これまでの各分野の常識を変えていく可能性は十分にある。量子コンピュータ技術の活用事例について、広くアンテナを立てておく必要があるだろう。
最後に、量子コンピュータの具体的な活用事例を紹介したい。
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