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大きく進化した「Logic Pro X」 GarageBandのLive Loopsと何が違うのか?(2/4 ページ)

» 2020年05月14日 13時13分 公開
[松尾公也ITmedia]

GarageBand>Logic Pro Xの終わり

 だがここ数年、この2つのDAWにある種の逆転現象が生じていた。iOS版GarageBandの方が明らかに高機能で今の音楽シーンに合った機能を提供している。その際たるものが、Live Loopsという機能だった。

 通常のDAWの楽曲制作フローが、トラックを1つずつ重ねていくのに対し、Live Loopsではサウンドループをグリッド状に配置し、それをまとめて、または個別に再生することで縦横無尽にサウンドを展開していくことができる。Remix FXというDJ的リアルタイムエフェクトをかけられる機能も利用できる。EDM、エレクトロニカ、ヒップホップなど、現代的なサウンドを作るのに向いている機能はLogic Pro Xより先にGarageBandの方に取り入れられたのである。それが、2016年1月のことだ。

photo iPad版GarageBandのLive Loops

 こういったジャンルのサウンドに特化したDAWとしては、Ableton LiveやFL Studioなどがあり、特にAbleton Liveはトラックメーカーが好んで使っていることで知られている。Live Loopsが登場したときには、「え、これなんていうAbleton Live!?」という声が上がっていたほどだ。

 それまでは、Logic Pro Xに最初に実装され、それがGarageBandに降りてくる、というパターンが多かった。高機能ソフトウェアシンセサイザーのAlchemyや、さまざまなスタイルのドラミングを自動的にフィルしてくれるDrummerは、もともとLogic Pro Xにあったもの。プラグイン規格のAudioiUnitsもiOSにやってきて、サードパーティープラグインにもmacOSとiOSとで互換性を持つものが出てきた。

 そのLive Loops、Remix FXがLogic Pro Xに「逆輸入」された最初のバージョンが10.5というわけだ。なぜ4年という長い年月がかかったのか。

 Appleによれば、それはプロが使えるようにするために機能を磨いていたからだという。Logic Pro Xは多くのプロミュージシャンにも愛用されていて、その中で今最も有名なのは、ビリー・アイリッシュの兄でプロデューサーでもあるフィニアス・オコーネルだ。彼はLogic Pro Xを「私にとっては常に唯一無二のDAW」と呼ぶ。つまり、ビリー・アイリッシュの楽曲は全てLogic Pro Xで作られているのだ。こうしたユーザーのことを考えると、熟成の期間が必要というわけだ。

 では、Logic Pro X版Live LoopsはiOS版GarageBandのそれとどこが違うのか? テンプレートとして使うことができる種類は、iOS版GarageBandが32種あるのに対し、Logic Pro Xには17種しかない。この差はなぜか?

photo iPad版GarageBandのLive Loopsテンプレート数はLogic Pro X版の倍近くある

 それにはちゃんと理由があった。Appleによれば、テンプレートの数が少ないのはプロが使えるものを厳選しているからだという。確かに初期のテンプレートであったり、お子様向けだったり、民族楽器だったりと、「楽しむならいいけど」というものは外されているようだし、名前は同じであっても音源が追加されていることもある。Logic Pro Xのメインユーザーなら、テンプレートを丸ごと使うのではなくて自分で演奏したサウンドを入れるだろうから「それでも困らないと思うよ」という感じだろうか。

 既存のLogicプロジェクトを簡単にLive Loopsのグリッドに持っていくには、プロジェクトをバースやコーラスといった単位で切って、複数トラックを丸ごとグリッドにドラッグ&ドロップするといった方法がある。iOS版GarageBandと違い、新しいLogic Pro XではLive Loopsのグリッド編集画面と通常のトラック編集画面を並べておくことができるので、そうしたことも可能なのだ。iOS版ではスクラッチから作ろうという気にはなかなかなれなかった。

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