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» 2020年05月29日 07時00分 公開

AIがデジタルトランスフォーメーションの起爆剤に? “ミニDX”から始める企業変革よくわかる人工知能の基礎知識(3/4 ページ)

[小林啓倫ITmedia]

高度なAI活用がもたらすDX

 米テキサス州に拠点を置く、USAAという金融機関がある。同社は1922年に設立された古い企業で、顧客は米国の軍事関係者やその家族。1200万人以上の利用者に銀行や保険といった金融サービスを提供している。そう聞くと旧態依然とした団体のように聞こえるかもしれないが、実は同社は実店舗を持たず、主に電話やインターネットを通じてサービスを提供している。最新テクノロジーへの投資にも積極的で、ビジネス系のメディアで取り上げられることも多い。

 彼らが17年に導入した新たな技術が、AIを活用した音声によるチャットbotである。金融業界はチャットbotの導入が進んでいる領域の一つだが、同社のアプリケーションはその中でも高度なものになっている。

USAAの公式サイト上で利用できるチャットbot

 彼らが採用したチャットbotは、米国のスタートアップ企業Clincが開発したもので、機械学習に基づく自然言語処理を実現している。そのため顧客は、普通の人間の担当者に話しかける感覚でさまざまな質問ができ、botはその内容を把握して、適切な回答を音声やテキストで返す。ちなみにClincは、日本でもみずほ銀行とNTTデータに協力し、19年に音声インタフェースの実証実験を行っている。顧客とのやりとりも学習するため、使えば使うほど応答内容が改善されるという特徴を持つ。

 次の映像は、USAAのチャットbotではないが、Clincが同社のチャットbotエンジンである「Finie」と、他のアプリケーションを比較したものだ。

動画が取得できませんでした

 彼らは自然言語処理の精度を高めるために、米Intelと提携しており、同社の公式サイトでは日本語による紹介映像も公開している。

 USAAはこのチャットbotによって、人間の顧客担当者の負荷を減らすことができた。しかしそれで終わりではない。同社はチャットbotと顧客データベースをリアルタイムに結び付けることで、顧客への返答を、彼らが置かれた状況や抱えている課題に基づいてきめ細かに調整するという対応を実現している。

 USAAの顧客は軍関係者であるため、任務による派遣や、ローテーションなど移動が頻繁に発生する。そこでUSAAでは、そうした移動や定着をスムーズに進める支援や、居住地や任務の内容に基づいた金融サービスを提供している。それは従来も行われてきたが、同社の従業員数は約3万人であり、その数で1200万人の顧客に対して、瞬時に的確なサービス内容を割り出すのは難しい。

 しかし顧客対応の多くをチャットbotに任せることで、USAAは個々の顧客に対し、最適な提案をすることが可能になった。特にUSAAは実店舗を持たないため、チャットbot化によって顧客に最初に接するのがほぼAIという状況になる。もちろんAIで対応できないリクエストについては、人間の担当者にエスカレーションされるようになっている。

 通常であれば、それは顧客に「機械的な対応された」という感想を抱かせ、満足度の低下をもたらすリスクへとつながる恐れがある。しかし前述の通り、Clincの開発したアプリケーションでは、顧客は普通の会話のようにやり取りできる。しかも自分の置かれた状況に基づいて返答してくれるとあれば、冷たい印象を抱かせる危険は少なくなるだろう。したがってUSAAは、顧客に対するサービスの水準を常に一定に保ち、しかもそれを高いレベルに引き上げることが可能になったといえる。

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