ITmedia NEWS >

ARMの誕生 〜Sinclair、BBCからNewton、Symbianへ〜RISCの生い立ちからRISC-Vまでの遠い道のり(3/4 ページ)

» 2020年06月08日 08時42分 公開
[大原雄介ITmedia]

そしてNewtonへ

 このActive Bookは、Acorn創業者だったハウザー氏が創業した新しい会社である。ハウザー氏はOlivettiによる買収後に同社を去り、Active Book Companyという電子書籍(というか、電子書籍リーダーというのが正確か)の会社を立ち上げた。要するにKindleの超御先祖様であるが、このために省電力なCPUが必要になった訳だ。ここでARMプロセッサの目的が、「RISCを生かして高性能」から「RISCで得られる高性能を生かし、同じ性能をより低消費電力で」に切り替わった瞬間でもある。

 Active Book Companyはその後AT&Tに買収され、AT&TのEO Personal Communicatorにつながることになる。あいにくとそのEOは、AT&Tが自社開発していたHobbitという独自のCISCプロセッサを使うことになったため、結果としてスタティック版ARM2はお蔵入りとなったが、これに目を付けたのがApple Computer(当時)のジョン・スカリーCEOである。もっと正確に言えば、スカリー氏が新しい形の情報端末のアイデアを出し、これを受けて当時Appleのラリー・テスラー氏がハウザー氏に渡りをつけ、ハウザー氏がまずスタティック版ARM2を紹介した。

 ただこれでは、当時Appleが想定していた未来のNewtonの実現にはいろいろ不足だということで、ここからAppleとAcorn、VLSI Technologyの3社による新しいCPUの共同開発プロジェクトがスタートすることになる。

 ところが、開発が進むにつれ、Acornが単独企業ではなくOlivettiの子会社であることが、いろいろと障害になりつつあった。そこでハウザー氏がいろいろと水面下で立ち回り、1990年にAcornのプロセッサ開発部門(わずか12人のエンジニア)がスピンアウトする形で独立企業になった。

photo 最初のARMの本社。写真の説明は「洒落た納屋」。出典は“A Brief History of Arm: Part 1

 もともとAcornはARMという名前でチップを製造していた訳だが、これはAcorn RISC Machineの略だった。ただスピンアウトにあたって、これをAdvanced RISC Machineに改称し、社名もこれを利用することになった。

 同社はRISCベースのプロセッサのIP(知的財産)を提供、これをVLSI Technologyが製造し、Appleがこれを組み込むという分業体制が確立した訳だ。初代CEOはロビン・サクスビー卿である。この分業体制で、ARMがNewton向けに開発したのが、ARM6である(アーキテクチャはARMv3)。このARM6はAppleだけでなくAcorn Computerもまた採用したが、ただここから大きくは広がらなかった。

photo ARM6ベースの最初のチップであるARM610。ロンドンのScience Museumで展示されていたもの

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.